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歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

お茶飲みが大好きな信州人。どんどんと注ぎ足されてつい長居してしまったという方もいらっしゃるのでは。これも「ゆったり寛いでほしい」という思いを込めた信州独特のおもてなしのひとつです。

お茶請けも漬物や粉もんなど多種多彩なのですが、甘いものといえば和菓子。昔から変わることなく、家庭でも当たり前のように登場する菓子たちには、その土地土地ならではの歴史と風土が息づいています。

歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

受け継ぎ伝えていきたい地域の誇る伝統の風物詩
初夏にだけ楽しめる香りと味わい 木曽の郷土菓子「ほおば巻」

山々の緑が鮮やかな6月、農繁期のおやつとして、月遅れの端午の節句の祝いとしてつくられていた『ほおば巻』。頑丈で殺菌作用があり、ほのかな甘い香りを持つホウノキの葉を使った木曽地域伝統のお菓子です。

「葉をとってくるのが男性陣、団子をつくって包むのが女性陣やこどもたちの役割。昔は1軒で200個位つくるのが普通でしたから、家族総出の行事でしたね」と野口さん。

歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

今では食べやすいよう団子も小ぶりになりましたが、昔はお腹いっぱい食べられるようにと倍くらいの大きさだったそう。

「私らがこどもの頃は皮がぶ厚くて、ひと口食べただけじゃあんこが出てこなかった(笑)。だんだん皮も固くなってくるから囲炉裏で焼いて食べたもんだよ」とお母さんたちも盛り上がります。

今では、木曽地域の菓子店や道の駅などでも購入できるようになりましたが、味わえるのはこの時期だけ。ほおば巻で木曽の旬をぜひ感じてみてください。

野口広子さん夢人市(木曽町)
代表 野口広子さん

昭和62年に地元のお母さんたちと「夢人市」を立ち上げ、ほおば巻・すんきなどの木曽名物の製造販売を行うほか、NPO法人ふるさと交流木曽の理事として地域の郷土食や歴史文化を伝える活動を行っています。

歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

鬼胡桃だけが醸しだす独特の甘みと風味
城下町の文化が生んだ松本の茶菓「真味糖」

随所に名水が湧く城下町、松本。乾燥する気候も手伝い頻繁にお茶を入れる習慣が生まれ、独特の茶菓文化も育まれました。そんな松本で大正初期に誕生したのが『真味糖』です。

発売当初は切り口の胡桃の模様が、歌舞伎の隈取に似ていたことから『歌舞伎くるみ』と呼ばれ、銀座の歌舞伎座で売られたことも。昭和初期に裏千家淡々斎宗匠がより茶席菓子にふさわしい名をということで『真味糖』と命名されました。

歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

「多くの人に愛してもらえるよう、安価で美味しいものをつくりたかった。そこで当時、農家の副業として豊富にあった鬼胡桃に目をつけたんです」と渡邉社長。

「鬼胡桃が貴重になってしまったから、違う種類の胡桃やアーモンド、ピーナッツなどでの代用も検討しました。でもこの独特の甘さと風味が出ないんですよ。偶然にして運命的な出会いだったんでしょうね」と語ります。『真味糖』は松本でしか誕生し得なかった銘菓なのかもしれません。

職人技と専用機械でつくる!真味糖ができるまで

  1. 真味糖ができるまで砂糖をホイップ状に砂糖は氷砂糖と同じ品質で溶けやすいAザラを使用。まず砂糖を煮溶かして飴状にし、ミキサーで混ぜます。空気を含み白くふんわりしたら、鬼胡桃を加えます。
  2. 真味糖ができるまで木型へ広げる鬼胡桃と砂糖をよく混ぜ合わせたら専用の木型へ流し込み、平らにのばします。生地に粘り気があるため機械での作業は難しく、職人の手仕事でなければ出来ない作業です。
  3. 真味糖ができるまで断裁し乾燥させる木型で一晩押し固めたら、カット作業へ。真味糖を断裁する機械は100%自社開発で、乾きやすいように間隔を空けながらカットできるのがポイントなのだそう。

渡邉公志郎さん開運堂(松本市)
代表取締役 渡邉公志郎さん

明治17年に呉服商から菓子業へと転業して百三十余年。地域に根差した菓子づくりを貫く老舗の4代目社長。本来お菓子は季節を感じる食べ物。いろいろな技術が進化しても、その文化は大事にしたいと語ります。

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100年を経ても変わらない製法と素材へのこだわり
信州の旬がギュッと詰まった上田の和風ゼリー「みすゞ飴」

元来穀物商だった飯島商店が製菓業を営むきっかけとなったのが、明治33年に東京深川で起きた洪水でした。

冠水米の活用を相談された五代目・飯島新三郎氏は、米のデンプンを抽出して水飴をつくり、さらに水飴を使って信州ならではの製品をつくろうと、地元の果物と寒天を取り入れた『みすゞ飴』が誕生。その製法は当時からほとんど変わらず、製造もほぼ手作業で行っているというのも驚きです。

歴史と風土が息づく 信州伝統のお茶の友

「職人の手に勝る機械はありませんね。30年以上もオブラートを包み続けている職人もいるんですよ」と広報を担当する田中さん。選定する果物へのこだわりも当時から強かったそうです。

「素材選びは、私たちの商品づくりの根幹です。生で食べたとき甘くて美味しいものが適しているとは限らない。加工後の味の変化や、上品な酸味があるかなどを見極めないといけないんですよ」との言葉に、100年を越えても愛され続ける理由を感じることができます。

伝統の製法はすべて手づくり!みすゞ飴ができるまで

  1. 真味糖ができるまで果実加工と飴練り国産果物を丹念に加工して果汁を搾ります。果汁へ水飴・砂糖・寒天を加えて煮つめ、色と香りをこわさないように練りこみ、型へ流し込んで生飴をつくります。
  2. 真味糖ができるまで飴切り生飴を大包丁で切り分け、みすゞ飴の形に整えます。ゼリー状の生飴を切るのは、力配分が難しく波打たずに切るには熟練した職人技が必要です。
  3. 真味糖ができるまで飴巻き仕上げは生飴ひとつずつに手作業で0.02mmの薄さのオブラートを巻きつけます。これが生飴の水分を逃がさず、みずみずしさを保つ役目を果たします。

田中弘之さん飯島商店(上田市)
田中弘之さん

都内で就職活動中に会社説明会で地元の飯島商店を見つけ、懐かしいと思ったのが入社のきっかけという田中さん。「私自身もみすゞ飴に魅了されたひとりなんですよ」と笑顔を見せます。

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