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信州の肉を喰らう!第1弾

信州の肉を喰らう!第1弾
画像:信州の肉を喰らう!第1弾

地域ごとに多様な食文化が育まれてきた長野県。信州そばやおやきなどが代表格ですが、実は各地に根付く食肉文化もバラエティ豊かです。そこで「信州の肉を喰らう」と題した特集を2回に分けてお届けします。

vol.1 見た目も名前も味わいも!インパクト大の「山賊焼」

画像:3代目店主 髙見 直孝さん

山賊
3代目店主 髙見 直孝さん

画像:山賊焼

塩尻市や松本市を中心に発展し、県内全域の食堂や居酒屋はもちろん、スーパーやコンビニの惣菜売り場でも見かけるようになった「山賊焼」。鶏の一枚肉をニンニクの効いた醤油ダレに漬け込み、片栗粉をまぶして揚げた豪快な料理です。

サクサク、ジューシーな食感と食欲をそそるニンニクの香りが魅力で、ご飯にもお酒にも合うこともあり、今では広く県民に愛されています。

画像:居酒屋「山賊」

JR塩尻駅から徒歩5分ほどの場所にある「山賊」。店の前に“元祖 山賊焼”の石碑が立つ


画像:居酒屋「山賊」

昔ながらの居酒屋の風情が漂い、県外からも多くの客が「山賊」の味を求めて足を運ぶ

その発祥の地とされるのが、“元祖 山賊焼”の石碑が立つ塩尻市の居酒屋「山賊」です。現店主で3代目の髙見直孝さんの祖父母が約70年前に考案したと伝わります。

画像:ジーパイ(鶏排)

「ジーパイ」は大きな鶏肉一枚をまるごと揚げた定番の台湾グルメで、確かに山賊焼の見た目にそっくり


画像:秘伝のタレ

中国料理の系譜を受け継ぐ秘伝のタレは、通常の鶏の唐揚げの10倍量とされるニンニクを使うのがポイント。タマネギ、醤油、酒、みりんを使用し、ショウガは使わない

正確な記録は残っていないものの、髙見さんが親戚などから聞いた話では、戦前から「松本食堂」という店を構えていた祖父母が、中国からの帰還兵が同地で食べた鶏料理の話をヒントに作り上げたのだとか。髙見さんいわく、台湾の屋台料理「ジーパイ(鶏排)」がルーツではないかと予想しているそうです。

画像:中サイズ

中サイズでも、このボリューム! ほかに、ミニ・大・特大が選べる


「山賊焼」というメニュー名も祖父母が考案。祖父はもともと博労(ばくろう)と呼ばれる家畜商も営んでおり、自ら地域の農家を回って鶏を仕入れてさばいていたことから、ボリューム満点の骨付き鶏で提供していたそう。

そのインパクトある料理の見た目に合わせ、「一度聞いたら忘れない名前を」との発想で、山賊のような祖父のワイルドな風貌もかけて「山賊焼」としたと言われています。

画像:山賊焼

片栗粉をたっぷりとまぶし、高温の油でしっかりと揚げることで独特の食感に


「揚げているのに“焼き”としたのも、気になるメニュー名を付けたいと思った祖父母の独特のネーミングセンス。

今ではちょっと変わったメニュー名は珍しくありませんが、当時にその感性を持っていたのは祖父母の先見の明であり、戦略でもあったと思います。この名前だから人気が出たのでしょう」と髙見さんは話します。

その言葉どおり、「山賊焼」は、おいしさも相まって大ヒット。そこで店名も現在の「山賊」に変えたのだそう。

次第に周辺でも提供する店が増え、ご当地グルメとして定着。各地でB級グルメが話題となり始めた2000年代からは、県内外に知られるようになりました。

今も髙見さんが発祥の店としてこだわるのは、骨付きで提供すること。製法も祖父母の代からほとんど変えていません。

「この地を代表する料理になってほしい、山賊焼きを求めて地域を訪れる人が増えてほしい。これも祖父母の頃から変わっていないことですね」とその愛を語ります。

画像:山賊

山賊
住所:塩尻市大門七番町10-1
電話:0263-52-0743

vol.2 ソースとキャベツが決め手!「駒ヶ根ソースかつ丼」

画像:会長 新井 孝治郎さん

駒ヶ根ソースかつ丼会
会長 新井 孝治郎さん

画像:ソースかつ丼

国民食ともいえるほど日本中で愛され、庶民の味として親しまれているカツ丼。

卵とじが一般的ですが、駒ヶ根市では揚げたての厚切りトンカツに甘辛ソースを絡め、千切りキャベツを敷いた「ソースかつ丼」がおなじみです。この味わいを求め、多くの観光客がこぞって訪れるご当地グルメの定番でもあります。

画像:ソースかつ丼

ソースがかかったカツ丼が市内で初めて提供されたのは、昭和初期。食通だったカフェ「喜楽」の主人が、当時盛んになりはじめたカレーやカツレット、オムレツなどの洋食を見て、煮カツをヒントに考えたとの逸話が残っています。

そのカツ丼が評判となり、さらに当時、伊那谷には日本初のソースを造った「KAGOME」の工場があって、この地域でソースが身近な存在だったことから、次第にソースかつ丼が家庭料理としても普及したと言われています。

画像:ソースかつ丼

お重ではなく丼で提供するのが鉄則。あふれんばかりのカツは蓋に一度載せ、下のごはんとともに味わうのがおすすめ

しかし、県内外にその存在が知られるようになるまでには、陰ながらの努力がありました。

ふたつのアルプスに囲まれた自然豊かな駒ヶ根市でも、平成に入るとバブル経済が崩壊して地域間競争が激化。地元が育んできた地域資源でまちおこしができないかと、商工会議所では地方創生の専門家を市外から招いて検討会を開きました。

そんな折、昼食で提供された「ソースかつ丼」を見た専門家は、今まで食べたことがない意外な見た目の料理に驚き、「これはこの地域の活性化の起爆剤となりうる素材だ!」と確信します。

全国各地を巡っていた専門家でさえも珍しいと感じたソースかつ丼。地元の人にとってはあまりにも当たり前の食事だったことから、当初はなかなか飲食店の賛同が得られませんでしたが、専門家と商工会議所の丁寧な説明などにより、少しずつその独自性や可能性に対する理解が浸透しました。

こうして1993年、ソースかつ丼を提供する飲食店が参加して「駒ヶ根ソースかつ丼会」が発足。独自の食文化を切り口に、まちの魅力を発信する取組みがスタートしたのです。

画像:ソース

揚げたてのカツをソースにくぐらせる際、ソースを温めておくことも9カ条のひとつ

特に尽力したのが、味の決め手となる旨味ソースの基本となるレシピ作りです。地元味噌蔵に委託醸造して市販品を開発。さらに、品質の統一を図るべく「肉は豚ロースが基本で120g以上」「キャベツ以外の野菜は載せない」といった9カ条を定めました。

これにより、山梨県甲府市や群馬県桐生市、福島県会津若松市、福井県などに伝わるソースカツ丼とは一線を画すものになったのです。

画像:ソース

会で作った特製旨味ソースは市販もされている

以来、ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」で入賞するなど、全国的な知名度も向上。

15周年には市販のソースに駒ヶ根市内で製造されている伊那醤油の本醸造醤油を使用し、よりおいしくリニューアルしました。

25周年には全国のソースかつ丼を集めたフェスを企画するなど、さまざまな活動を展開しています。

画像:のぼり旗

会員の店の証は、揚げ色(オレンジ色)ののぼり旗。「かつ」は平仮名表記が正式

ほかに、地元マラソン大会の参加者への割引券の配布や、ふるさと納税の返礼品としての活用、地元受験生に向け「かつ丼を食べて、試験に勝つ」との意味を込めた駒ヶ根ソースかつ丼会に所属する飲食店のかつ丼の割引券の配布など、地域に根ざした取組みも実施。

2015年には持ち帰り弁当専門チェーン店「ほっともっと」での期間限定のメニュー化により、全国展開も果たしました。

画像:ソース

カットした肉厚の断面が食欲をそそる

現在、34店舗が加盟する駒ケ根ソースかつ丼会5代目会長を務めるのが、ラーメン店「えんぎ屋」など2店舗を営む新井孝治郎さんです。

「えんぎ屋」でも、餃子や唐揚げ、チャーシュー丼などのセットメニューがある中で、ラーメンとソースかつ丼のセットが一番人気。

新井さんが作るソースは会で定めた旨味ソースの味を基準に、新井さんの店ではすりおろしりんごを加えるのがポイントです。カツは180~200gのボリュームで提供しています。

画像:えんぎ屋

駒ヶ根市から宮田村に移転した「えんぎ屋」。新井さんはほかに駒ヶ根市内にもラーメン店を経営

「ソースかつ丼は、和・洋・中を問わず提供できるのが魅力で、駒ヶ根市内の店をいくつもはしごする観光客の姿も見られます。一方で、会ではお客様の期待を裏切らない調理に努めてきました。先輩たちが築いてきた歴史の重みも大切に、これからも地域の食を通じた活性化に貢献していきたいですね」

こう話す新井さん。来年はいよいよ駒ヶ根ソースかつ丼会発足30周年を迎え、まだまだ発展していく会の展開に、今後も要注目です!

画像:(有)大喜 えんぎ屋

(有)大喜 えんぎ屋
住所:上伊那郡宮田村4830-1
電話:0265-96-0403

※この記事は2022年12月時点の情報です。取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください