信州のものづくりの原点と未来に触れる 木曽路の手しごと探訪
江戸時代、五街道のひとつとして整備された中山道。山合いを縫うように流れる木曽川に沿って、険しい峠を越え深い谷を抜ける木曽路には、中山道69宿のうち11の宿場が置かれ、多くの人々が往来しました。
そして、豊かな森林の恵みを活かし、木工品を中心とする独自の手しごと文化も育まれました。昨年、日本遺産にも認定されたこの地で受け継がれる伝統から、信州のものづくりの原点と未来を感じることができます。
漆器職人の挑戦が生んだ艶やかな「漆硝子」
伝統の“漆らしさ”をもっと暮らしの中へ
生活様式の変化とともに大型家具が少なくなる状況をみて、漆器にも危機感を感じたという二代目の康人さんが挑んだのが硝子と漆の融合でした。両者をしっかり密着させるのは成功例もなく至難の業でしたが、長野県工業技術総合センターの協力のもと試行錯誤を重ね、ついに1994年に漆グラス“すいとうよ”が誕生します。
「展示会では驚くほど売れました。そして何より若い世代にも好評だったのが嬉しかったですね」と康人さん。
そして三代目となる玲央さんと妻の智恵さんが抱いたのが、父が誕生させた漆硝子をもっと楽しく、もっと暮らしの中にあるものにしたいとの想い。デザイン性豊かな新ブランド“百色”を立ち上げ、多彩なテーブルウェアを続々と生み出しています。
「いまはヨーロッパのデザイナーとも商品開発し、海外展開も準備しているところです」と語る玲央さん。進化した木曽漆器の技が今、世界へと羽ばたこうとしています。
代表取締役 小坂康人さん・玲央さん・智恵さん
重要伝統的建造物群保存地区にも選定され、漆工町の「木曽平沢」で約70年の歴史を持つ漆器店。工房を切り盛りするのが、数々の受賞歴を持つ伝統工芸士の康人さん、息子の玲央さん・智恵さん夫妻。
江戸の世からその名が轟く木曽路の逸品「お六櫛」
職人技の原点にあるのは妥協のない道具づくり
お六櫛は、旅籠の娘「お六」の持病の頭痛が「みねばり」の木の櫛で治ったという伝説がある木曽路の伝統工芸品。
硬くて粘りのある「みねばり」の産地であり、伝説が残る木祖村で、現在もその伝統を受け継ぐのが篠原さんです。
わずか8cm程の幅の木から、手作業で100本もの歯を削りだします。「櫛づくりは真っ直ぐ鋸のこを挽くのも難しいんだけど、実は一番大切なのはその道具づくりなんだ。親方から一人前の道具ができたなと言われるまで4、5年はかかったなぁ」と昔を振り返ります。
櫛づくりで最も大切な道具が「歯挽き」と「山抜き」のための鋸。2つは、同じ厚さであることが絶対条件で、この2本の鋸をつくれることが本物の職人となるための登竜門なのだそうです。
また、材も天然なので木目もさまざま。実際に山へ木を見に行き、櫛にしやすい木の取り方も研究したという篠原さんがつくる櫛は、紛れもない名工の逸品です。
手挽お六櫛工房 篠原(木祖村)
現代の名工 篠原武さん
30歳の頃に父親が倒れたのを機に4代目として家業を継ぐ道を志し、人間県宝にも認定された川口助一さんに弟子入り。それから43年、この道一筋をゆく今では数少ないお六櫛職人のひとり。
背中だけのちゃんちゃんこ・ご当地着物「南木曽ねこ」
手仕事の町ならではの知恵と愛情たっぷりの着物 “ねこ”は、南木曽町で昔から愛用されている背中の部分だけのちゃんちゃんこ。名の由来は、ねんねこ半纏(はんてん)からだとか、着て仕事をしている姿が猫に似ているからなど諸説ありますが、この独特の衣服が生まれたのには、ちゃんとした理由があります。
南木曽町は、桧笠やろくろ細工などの工芸が盛んな地域。冷える背中を温めて、作業の邪魔になりやすい袖や、汚れやすい前身部分を省くという、防寒着と作業着の合理性を兼ねたものなのです。
「南木曽に嫁いで初めて見たときは、何だこれは!?と思いましたね(笑)。でも着てみたら温かいし楽だし手放せない。これはもっとたくさんの人に知って欲しいと組合を立ち上げて製作と販売をはじめたんです」と会長の吉村さん。今では組合全体で年間数万枚が売れるほどの人気を誇ります。
同組合の副会長を務め、かつて縫製の仕事に携わっていたという野原さんは、「昔、それぞれの家庭でつくっていたのは、ピタッとして本当に着心地がよかった。縫製の技術も取り入れてより良いものを目指していますが、やっぱりベースにしているのは、おばあちゃんのつくった“ねこ”なんですよ」と語ります。
何の変哲もなさそうに見えるカタチにも実はこだわりがあり、カラダにフィットする工夫があるのだそうです。“ねこ”が驚くほど温かいのは、母ちゃんたちの愛情が込められているからかもしれませんね。
南木曽町ねこ製作組合会長・吉村早苗さん
2009年に地元のお母さんたちを中心に組合を立ち上げ「南木曽ねこ」の製作と販売を開始。現在は11名が所属しており、80代で元気にねこをつくるおばあちゃんも。
南木曽町ねこ製作組合副会長・野原法子さん
岐阜出身の野原さんは、結婚したときにご主人のお母さんからもらった「ねこ」が温かくてやみつきに。もちろん息子さんの奥さんには自身でつくったものを贈ったそう。
木曽路の冬を楽しむイベント 木曽路 氷雪の灯祭り 1/28~2/11
奈良井宿アイスキャンドル祭り
手づくりのアイスキャンドルや雪像などで、宿場町や木曽御岳山麓を彩る幻想的な木曽路の冬の風物詩です。
1/28(土)
大桑村(大桑駅周辺)、木祖村薮原宿、上松町(ひのきの里総合文化センター周辺)、木曽町日義(義仲館周辺、原野駅周辺)
木曽ふくしま 雪灯りの散歩路
2/3(金)
奈良井宿アイスキャンドル祭り(塩尻市奈良井宿)
2/3(金)・4(土)
木曽ふくしま 雪灯りの散歩路(木曽町福島宿)
2/4(土)
開田高原かまくらまつり(木曽町開田高原)、王滝村(観光総合事務所付近)
開田高原かまくらまつり
2/5(日)
塩尻市贄川宿場
2/11(土)
木曽町黒川(ふるさと体験館きそふくしま付近) 、南木曽町妻籠宿、 中津川市馬籠宿(藤村記念館周辺)