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【特集記事】踊らまいか! 信州の風流踊
vol.2 三夜を徹して神々と先祖を供養する盆踊りの原型「新野の盆踊」

新野高原盆踊りの会
会長 林 弥寿雄さん

「民俗芸能の宝庫」といわれる南信州。関東と関西を結ぶ街道を通じて多様な祭りが各地に伝わり、歴史や風土に応じて変化し、息づいています。なかでも長野県南端に位置する阿南町は、平家の落人伝説が語り継がれるほど山深く、素朴な生活に根付く独特の祭りが受け継がれてきた地。そのうち、お盆の時期に行われるふたつの異なる風流踊が、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。

そのひとつが「新野の盆踊」。町内最南端の県境に位置する新野地区で500年以上続く静かな踊りです。8月14〜16日の夜9時から翌朝6時頃まで、商店街を会場に、住民たちが毎晩6種類の踊りを休むことなく夜通し繰り返し、精霊を供養します。笛や太鼓といった楽器を一切使わず、音頭は櫓(やぐら)の上にいる5〜6人の音頭取りによる「音頭出し」と、 櫓の周りの踊り手たちの「返し」の声だけ。櫓を中心に東西500mほどの細長い輪になって踊る輪踊りで、動作はいずれもシンプルでゆっくりとしています。

最後の日の明け方に行われる「踊り神送り」の神事はクライマックス。古風な行列踊りの「能登」の後、新盆の家から持ち寄られた切子灯籠が点火されます。仏教伝来以前の魂送りと祖霊信仰のかたちを残す儀式として、大正時代に民俗学者の柳田國男が高く評価し、盆踊りの原型のひとつといわれています。

「踊り神送り」の神事。広場に切り子灯籠を積み重ね、行者による道切りの式の後、花火の合図で切り子灯籠が点火される

▲「踊り神送り」の神事。広場に切り子灯籠を積み重ね、行者による道切りの式の後、花火の合図で切り子灯籠が点火される

この「新野の盆踊」の起源は室町時代の享禄2(1529)年。瑞光院が地区に創建された際、ゆかりのある三州振草下田(愛知県東栄町)の人々が開山祝いのためにこの地を訪れ、踊ったことが始まりと伝わります。

「踊りと唄は子どもの頃から子守唄のように聞いて育ち、自然と体に馴染んでいます」

こう話すのは、音頭取りを務める「新野高原盆踊りの会」会長の林 弥寿雄さん。近年は地区の人口減少により、運営維持の困難や後継者不足の問題があることから、実はユネスコ無形文化遺産の登録には会のなかで反対の声もあったと言います。それでも、今後の盛り上がりを期待して承諾した経緯があるそうです。

「昔からの姿が残る盆踊りを当たり前のように感じていた町民も、進学や就職で町外に出ると、実は特別なことだったのだと、その魅力を再認識するようです。たとえ踊りの輪が小さくなっても、盆踊りの時期には帰郷し、代々続けてきたものを受け継ぎたいという気持ちを持つ人も多いので、これからも継続する道を探していきたいですね」

平成16(2004)年からは小・中学生に向けた子ども教室も開催。阿南町教育委員会では、今後、帰省できない人に向けてライブ配信も予定しています。

また、「『新野の盆踊』は見て楽しむものでなく、実際に踊ることで楽しさがわかります」と林さん。「振り付けは覚えやすく、昔から誰でも自由に踊りの輪に加わることができることからぜひ多くの方にここに来て参加してほしい」と語ります。

「踊り神送り」の神事では、盆踊りの終わりを惜しむ踊り手たちが行列の進行を阻止しようと大小さまざまな輪を作って踊り続け、「新野の盆踊」の佳境を迎える

「踊り神送り」の神事では、盆踊りの終わりを惜しむ踊り手たちが行列の進行を阻止しようと大小さまざまな輪を作って踊り続け、「新野の盆踊」の佳境を迎える

第二次世界大戦など困難な状況下でも、先祖供養と楽しみのために続けられてきたという「新野の盆踊」。コロナ禍で2年間休止した分、守り続けたいという人々の気持ちは強くなっているようです。ユネスコ登録による注目度の高まりが今後の運営の維持と後継につながるようにと、地域の期待は高まります。

 

新野高原盆踊りの会(下伊那郡阿南町新野)
電話:0260-22-2270(阿南町教育委員会)
https://mg.minami.nagano.jp/(南信州芸能ナビ)

 

※この記事は2023年7月時点の情報です。

 
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