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飯田の地で伝統を紡ぐ 真心を結ぶ日本の美、水引の世界

真心を結ぶ日本の美、水引の世界

南信州の飯田は、街道の要所として東西の文化が交流し、かつては信州の小京都とも呼ばれさまざまな文化が育まれました。また、和紙の原料となる楮こうぞが豊富で、古くから和紙づくりが盛んでした。

こうした背景もあり、現在、飯田水引は地域を代表する伝統工芸として、約7割の全国シェアを誇る産業として歩みを続けています。その歴史を紐解き、人々の思いに触れ、飯田水引の魅力に迫ります。

真心を結ぶ日本の美、水引の世界

文七元結から生まれた飯田水引の系譜
飯田の地でつくられる美と真心のカタチ

飯田水引の歴史の源は、“元結”と呼ばれる髪を束ねる紙紐づくりにあります。男性も髷まげを結った江戸時代、元結は全国で生産されていましたが、飯田の名を全国に広めたのが落語“文七元結”でも知られる桜井文七でした。

「文七さんは “強く綺麗で馴染みやすい”という飯田元結の特徴を活かして、光沢ある丈夫な品を作り、江戸に売り込んだんです。江戸で瞬く間に評判になって、文七元結は全国区のブランドになったそうです」と大橋理事長。

真心を結ぶ日本の美、水引の世界
真心を結ぶ日本の美、水引の世界

「そのおかげで、明治になって断髪令が発令された後にも飯田には元結が産業として残り、その技術が水引へ受け継がれていったんですよ」と教えてくれます。

結納品として使われる機会は減ったものの、アクセサリーやラッピングなど新しい用途が増えているそうです。

「水引をかけるというのは、真心を包んで渡すこと。用途やデザインは変わっても気持ちは変わらない。それをしっかり伝えたいですね」と語ります。

大橋迪夫さん飯田水引協同組合 理事長 大橋迪夫さん

飯田市内の水引製造業は21社と、最盛期からは減少したものの組合全体で水引をPR するさまざまな取り組みを展開。理事長が社長を務める大橋丹治(株)では、現在も“文七元結”を販売しています。


真心を結ぶ日本の美、水引の世界

伝統の技を継承し作る最高級の生水引
手こき手染めで醸しだす水引の奥深い風合い

細工前の紙紐である「生水引」を製造するのが野々村水引店。広く使われる金銀紅白といった色はもちろん、蛍光色やラメ入りなど風変わりな物もあり、その数はなんと200~300種。これだけの種類がつくれるのは飯田の中でもここだけなのだとか。

さらに、もうひとつ、全国一の水引細工生産量を誇る飯田で義之さんだけが手がけるものが。それは、機械を使わず“手こき&手染め”で作る最高級の生水引。一本一本に布を挟み込み、海藻からできた糊と白色の染料をつけながら一気にしごくのは、ものすごく力が必要で見た目以上に難しい作業だといいます。

真心を結ぶ日本の美、水引の世界

「途中で止まると糊がダマになるし色ムラもできてしまう。だから一気に端から端までしごかなくてはダメなんです」と語る義之さん。

こうして職人の技術で手間ひまかけて仕上げられた水引には、機械では出せない独特の質感が。伝統の技から水引の奥深い世界が垣間見られます。

野々村義之さん野々村水引店 代表取締役社長 野々村義之さん

3代目となるご主人。現在は飯田で唯一の手こき・手染めを行う職人で、先代が復活させた宮内庁御用達の生水引「紅」の製造を受け継いでいます。ともに家業を支える飯田出身で愛嬌たっぷりの妻・京子さんとも息がピッタリです。


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変化し進化し紡がれる飯田水引の伝統
他種多彩なカタチはすべて手しごとで結ばれる

生水引をさまざまなカタチに仕上げる細工を担うのが木下水引です。機械化が進んだ今でも細工の工程はすべて手しごと。そのため、従業員以外に大勢のスタッフがいるのも水引業界の特徴で、飯田周辺には、今でも内職さんが200~300人、さらに中国やベトナムなど海外にもスタッフがいるそうです。

「水引細工の作業は1人1工程の分業制が基本。ひとりで全工程を行うより、同じパーツを手掛けた方が精度も効率も良くなるんですよ」と語る木下社長のところでは、少量生産の高級品だけなく日常で使える商品も多く、お正月飾りだけでも約180万個を手掛けています。

真心を結ぶ日本の美、水引の世界

「飯田にとって水引は、大切な地場産業。リーズナブルにしたり新しいデザインを取り入れたり、現代のニーズに合わせることでこれからも伝統が紡がれていくと思うんです。元結が水引に受け継がれたように、水引をもっと進化させていけたら嬉しいですね」と木下社長は語ります。

木下茂さん木下水引株式会社 代表取締役社長 木下茂さん

父の後を継ぎ、創業55年の木下水引(株)を経営する2代目。飯田の水引をより身近に感じて欲しいと水引博物館や観光ドライブインも経営。銀座NAGANO の水引体験イベントの講師も務めています。

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