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銀座の中心で信州を説く食の伝道師たち

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長野県の食が持つ魅力。それは、豊かな自然環境が育んだ果実や野菜であったり、伝承された技で仕込まれた調味料であったり、生活の知恵から生まれた保存食であったりと実にさまざま。そんな食の魅力の本質を学び体験できる機会を多彩なイベントで提供してきた銀座NAGANOもおかげさまで5周年を迎えます。節目となる今、改めて“伝道師”である講師陣に、長野の食への思いを尋ねてみました。

先人の知恵と季節の滋味を一汁三菜で味わう「信州の長寿ごはん」

横山タカ子さん

郷土料理研究家
横山 タカ子さん

“女性1位、男性2位”の平均寿命を誇る長野県。横山先生の講座では、農産物や保存食などの食材、伝統的な調理法、味噌や漬物をはじめとする発酵食材の取り入れ方など、健康長寿の源ともいえるものを学び、味わえます。そんな横山先生が講座に限らず日々の暮らしでもこだわっているのは、長野県の旬の食材を使った“ひらがな料理”です。

「“ひらがな料理”とは日本の伝統的な料理のこと。漬物や酢の物、和え物、味噌汁など、カタカナでは表現できないでしょ。あと、調味料も大切。丸大豆から造る醤油は最高の発酵調味料だし、天然の塩には体に必要なミネラルが豊富で、旨味も増してくれるの。信州のよい食材に良質な調味料の力をちょっと借りれば、家庭でも上質なごはんが仕上げられるんですよ」
この考えを基本に横山先生独自のアイデアとエッセンスが加わった一汁三菜の料理は、懐かしくも新しい発見があるおいしさで、多くの人を魅了しています。

作業風景

そして、都会に暮らす方々に横山先生がぜひ意識してほしいというのが、食材の旬です。
「現代は季節に関係なく野菜があるでしょ。でも、旬のものが一番栄養価が高く味わいも豊か。だから旬を知るって、本当に大切です。信州の人たちは食材が身近で作られているから、そのことを自然と知っているのよ」と語ります。
「講座は自分の好きなことをやっているだけ。でも、それで喜んでもらえるのだから、本当にうれしい」との言葉どおり、講座にはみんなでおいしいものを楽しくいただく、幸せな食卓の風景がありました。

イベント風景

ほぼ毎回満員御礼となる銀座NAGANOでも屈指の人気イベント。「何回やっても講座の後に『おいしかった』と言ってもらえるのは、うれしいですね。中には、『私の定番料理になった』とか『夫のコレステロール値が減った』なんて教えてくれる人もいるの。この講座を通じて、暮らしの中に信州の良いところを取り入れてもらえたんだなと思うと、やりがいになりますね」と話します。

横山さんの記憶に残るレシピ
朴葉のやたらごはん画像

朴葉のやたらごはん
木曽地域で昔から料理の盛り付けや保存などに活用される朴葉。そこに、きゅうりやなすなどの夏野菜と味噌漬けなどの漬物を細かく刻んだ北信州で伝わる「やたら」をのせたごはんを盛り込んだメニューです。朴葉は横山さんの自宅の庭に生えている無農薬のもので、中にはお持ち帰りされる方も。講座は昼夜の2部制で、夜の部に酒の肴として最も反響があったのがオリジナルレシピの干し柿の味噌漬け。ほどよい塩分と甘さでお酒が進む一品として、多くの人から好評を得たそう。

常連さんに聞きました

毎回、旬の野菜が本当に盛りだくさんなんですよ。一汁三菜のおいしい料理のストーリーを学びながら味わうと、長野県の長寿の秘訣を得た気持ちになれます。まるで横山家の一員となったようなアットホームな雰囲気も魅力的ですね。

横山 タカ子さん
大町市出身、長野市在住。料理好きな母親の影響で料理の道に入り、自宅で料理教室を主宰。1986年よりテレビ・ラジオで身近な素材と郷土食をテーマにアイデア料理を発表し、人気を博す。郷土料理の知恵を生かしたオリジナルの家庭料理や保存食も考案。NHK関東甲信越地域放送文化賞、長野県知事表彰(産業功労者)受賞。


食の原点に触れ、食の未来を感じる「信州の暮らしを彩る山里健康ランチ」

北沢正和さん

職人館館主
北沢 正和さん

「信州には海がないから、食べ物は、みんな土が育んでくれたものだからさ。極端なこと言えば、土を食ってるみてぇなもんなんだよ」と語る北沢さん。“北さん”の愛称で誰からも親しまれる気さくな人柄でありながら、料理への哲学的なアプローチは異彩を放ち、国内外の多くの有名シェフにも信奉されている料理人です。
講座では、「高原野菜」や「信州サーモン」など、長野県が誇る素材を使用しており、毎回ほとんどのメニューを銀座NAGANOに着いて材料を見てから即興で仕上げています。そんな北さんの料理の根幹にあるのが、できる限り食材のあるがままなる姿、味香を活かすこと。「本当に滋味深い料理っていうのは、食材の魅力なんだよ。だから料理ってのは、食材の味香を引き立てるだけで十分なんだ」

そして、北さんが人々を引き付ける魅力のひとつが、さりげない気遣い。それが料理の彩りや素材へのこだわりにも表れています。
「ここ(職人館)で食べりゃ風景を見て、もう秋なんだ、あの山で採れたんだってわかるけど、東京じゃビルだけじゃねいかい。だからここに咲いてる季節の花があれば、少しでも信州を感じられると思うんだよ。当たり前の身近なもの使って、どうしたら『あら素敵!』になるか。どう組み合わせたら人が喜んでくれて健康にいい料理ができるかってことが大切。目には見えないところにいいものを使うことも大事。料理なら調味料。見えないところに一番気を遣うってことを、俺はいつも講座でみなさんに話してるんだ。それは料理だけじゃなく、何の仕事も同じ。これ見よがしの仕事はだめ。さりげない気遣いが大事だと思うんだ」

作業風景

暮らしや自然とともにある料理や食べ方を伝えたいと話す北さんが注目しているのは、なんと縄文料理。縄文時代後期には雑穀類も多くの種類があったようで、土器も料理に使われていて、土と食が一番密接な時代だったのでは、と考えているそうです。「これから食の未来は、縄文回帰にあるかもしんねなぁ」。そんな一言も、現代の暮らしへの奥深いメッセージになっています。

イベント風景

“里山料理人の第一人者”としても名高く、長野県が推進している「信州感動健康料理」(「長野県に旅行に行ってこの料理が食べたい」と思ってもらえるような一汁三菜の料理)を開発するプロジェクトの講師も務める北沢さん。講座では毎回、1時間半ほどで献立を作って仕込みをし、その後、1時間半の講座の中で前菜からデザートの1コースを提供するので、かなり集中力を要するのだとか。魚料理も得意とし、里山と海の素材を組み合わせた創作料理で地球全体の恵みを味わう意味も大切にしています。

北沢さんの記憶に残るレシピ
オーガニック野菜の彩り山盛りサラダ画像

オーガニック野菜の彩り山盛りサラダ
毎回、どんなテーマでもメニューに加えていたのが、長野県の伝統野菜も使った山盛りのサラダ。信州の風景の彩りを大切に旬の素材を十数種類使い、時には季節の花びらを散らしたり、信州のブランド牛や豚などの肉類を加えたサラダも登場。和紙で濾した菜種油を使うなど、シンプルな味付けだからこそ細部までこだわりが感じられるメニューです。

常連さんに聞きました

「藍(愛)に包まれた料理の基本は引き算」とは?答えは銀座NAGANOで! 北さんの信州地場新鮮素材を紡ぐ料理はおいしく、心も浄化されます。
「最高の料理人は土そのもの!」と語る北さん。山里健康ランチは、信州を存分に感じられ、北さんのお人柄と相まって、ニコニコ、ワクワク!毎月とても楽しみな時間です。

北沢 正和さん
1949年長野県生まれ。公務員から料理人へ。祖父が暮らしていた佐久市の古民家を再生し、地域食材と職人の技を融合した農家レストランの草分けとして、1992年、蕎麦と創作料理を提供する「職人館」をオープン。地元食材を通じ、長野県をはじめ、 多くの県、市町村の地域活性化事業に尽力。2010年農林水産省第一回「料理マスターズ」で全国7人の料理人の一人に選ばれ、2016年に同シルバー賞受賞。(株)しなの文化研究所代表も務め、全国の農家レストランの企画受託、講演、執筆等、幅広く展開。


県内各地の粉もん文化を学び楽しむ「信州“粉もん”づくり講座」

小出陽子さん

信州おやき協議会会長
小出 陽子さん

“粉もん”といえば、お好み焼きやたこ焼きなどを思い起こしますが、実は長野は小麦粉消費量日本一(※総務省「家計調査」2017年版より)。それに一役買っているのが、小麦粉の生地で野菜などの具を包んで焼いたり蒸かしたりする郷土食「おやき」です。この「おやき」を中心とする県内全域のさまざまな粉もんを実際に作り、味わう体験講座の講師を務めるのが小出先生。「おやき愛」が強すぎるあまり、県内各地のさまざまな「おやき」を自ら訪ねて取材した、まさに生き字引で、講座ではおやきだけでなく、蕎麦粉を使った「ちゃのこ」「蕎麦焼き餅」、米粉をつかった「あんぼ」「やしょうま」、お米を使った「こねつけ」「五平餅」など、さまざまな粉もん郷土食が学べ、毎回新しい発見に出会えます。

参加者の年齢層は20~70代と幅広く、いずれも手作りの料理にこだわる人ばかり。おやき自体は知らず、飲茶作りの感覚で参加したところ、奥深さに魅了されて常連になった方もいるそうです。

作業風景

「常連さんもいらっしゃるので、毎回具材の味付けや生地を変え、具材を包みやすくまとめるなど試行錯誤していますが、生徒さんがおいしいと喜んでくれる時が一番うれしいですね。それに長野の野菜や食材をみなさんが心待ちにしているので、旬のおいしい素材を具に入れて一緒に紹介するようにしています」
そして、作る体験を通じて小出先生が伝えたいと思っているのが、それぞれの粉もん料理の季節感とストーリー。おやきがどれほど季節の行事に根付いた料理だったのか、ニラせんべいという料理がなぜ誕生したのか、そんなことを一緒に学ぶことで、粉もんから見える世界が一気に広がっていきます。

イベント風景

長野でおやきといえば、まず名前が挙がる小出さん。小出さんの営むおやき専門店「ふきっ子おやき」では、長野市南部に古くから伝わる製法の加水率が高いトロトロの生地で作ったもちもち食感のおやきを提供していますが、おやき教室ではさまざまなタイプの生地や具材を教えています。教室は自宅でも開催しており、男性の参加者も少なくありません。

常連さんに聞きました

季節感を大切にした、工夫を重ねた具材をご用意くださるので、今回はどんな具材かなとわくわくします。講座後は自分たちで作った料理と先生お手製のお茶請けと会話を楽しむ“お茶っこタイム”も楽しみにしています。

小出 陽子さん
1959年長野市生まれ。おやき専門店「ふきっ子おやき」店主。2004年、都内の外資系建設コンサルタント会社を退社し、母親が開業したおやき屋を継承。2013年よりおやき教室主宰、各種イベントでおやき作り指導。「信州おやき協議会」会長。信州大学認定ながの食品加工マイスター。著書に『信州おやき巡り(川辺書林)』『おやきの教科書(信濃毎日新聞社)』 。


楽しみながら学ぶワインの魅力「NAGANO WINE 講座」

花岡純也さん

NAGANO WINE応援団代表
花岡 純也さん

「NAGANO WINEの特徴は、多種多様なぶどうを使って栽培から醸造、販売まで手がける個性的な個人事業主のワイナリーが多いこと」と話すソムリエの花岡さん。講座ではさまざまなワイナリーの醸造家を招いたり、品種別講座を開いたりしてきましたが、こだわっているのは難しいセミナー風にしないこと。そのためにまずは乾杯し、ワインを飲みながら質問しやすい雰囲気づくりを心がけています。講座参加者からは「NAGANO WINEがこんなに奥深く洗練されていたとは知らなかった」といった声が聞かれ、口コミでその評判が広がると、NAGANO WINEの裾野を広げている充実感を覚えるそう。今後は地区ごとや醸造家の年代別に複数のワイナリーをゲストに呼ぶなど、新たな切り口での開講も考えています。

イベント風景

家業だった松本市の旅館の料理を担当するうちにNAGANO WINEに魅了され、その魅力を多くの人に伝えたい思いでソムリエになった花岡さん。講座では毎回、NAGANO WINEに合う和食を中心としたおつまみも用意。ゆくゆくはこうした講座の集客を長野の観光につなげるようなパッケージツアーも企画できたら、と話します。


毎年テーマを変え、コンスタントにレベルアップ「信州の日本酒講座」

玉岡あずみさん

信州地酒アドバイザー
玉岡 あずみさん

唎酒師で、長野県酒造組合が認める唯一の信州地酒アドバイザーでもある玉岡さんが担当するのは、参加者の知識を年々深めていく日本酒講座。専門用語をやさしい言葉で表現し、ハイレベルな話も噛み砕きつつ伝えるので、初参加者から常連まで毎回大きな反響があります。講座の中で玉岡さんが大切にしているのはネガティブな表現をせず、多様性を認めてひとつの価値観を押し付けないこと。また、日本酒は決してハードルの高い面倒なものではなく、知識の有無に関わらずそれぞれに楽しんで飲むものであることを伝えています。今年は長野県内を10地域に分け、各地の地域特性や土壌、文化から日本酒を探る講座を展開。地域に興味を抱いてもらうことで観光誘客につなげることも目指しています。

イベント風景

参加者は女性が7割で20代の若者も増加中。毎年5月の「長野の酒メッセ in 東京完全攻略」講座は“ぶっちゃけトーク”が聞けるとあって特に人気の回。講座参加者の中には意気投合して酒蔵を訪ねる旅行を楽しむ方や、酒蔵から「仕込みの手伝いに来てほしい」とのオファーを受ける方など、いろいろなつながりも広がっています。

この記事は2019年9月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

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