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きのこ生産量日本一!夏こそ食べたい、夏においしい長野県のこだわりきのこ

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世界中に6万を超える種類があるといわれるきのこ。国内には4,000~5,000種が存在し、そのうちの約300種が食用となっているのをご存じですか。秋の食材と思われがちなきのこですが、自然の中では、年間を通じてさまざまなきのこが生育しています。腸内環境を整える食物繊維、糖質からのエネルギーづくりをサポートするビタミンB1などが豊富なきのこは、実は夏の体が求める食材。日本一の生産量を誇る長野県内で、生育環境にこだわり、個性的な取り組みが行われている生産現場を訪ね、きのこの秘密と魅力に迫りました。

大自然の中で育まれる滋味豊かな山のきのこ

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丸中ロッヂ(野沢温泉村)

車1台ようやく通るほどの山道を進むと、山肌に複数の丸太が立ち並ぶエリアが目に入ってきます。その丸太には、遠目で見てもわかるほどの大きなきのこが。野沢温泉村の山の中、原木栽培に取り組むのが「丸中ロッヂ」。20年ほど前に民宿から体験型のロッヂへとリニューアルし、オーナー自らの案内で宿泊客自身にきのこや山菜を収穫してもらい、山を楽しんでもらうスタイルで、多くのファンが訪れる知る人ぞ知る「きのこの宿」です。

「山のきのこは風味や旨味が全然違う。野沢温泉村のはっきりとした四季がおいしいきのこを育むんだよ」
こう話すのはオーナーの門脇秋彦さん。天然きのこと限りなく近い環境で栽培されるきのこは驚くほど大きく、まいたけなど段ボールに入りきらないほどの大きさに成長するものも。

門脇さんはなめこの原木栽培からきのこ作りをはじめ、雪が解ける5月半ばの春しいたけ、夏のたもぎ茸、秋のまいたけ、なめこ、秋しいたけ、最後に“ウインターマッシュルーム”ともよばれるえのきたけなど、年間を通じ10種類ほどのきのこを栽培しています。原木にきのこの菌を打ち込んでから収穫まで2年ほどかけますが、菌と原木の相性が重要で、門脇さんは木を見て菌を選ぶそう。

丸中ロッヂ

また、一番おいしい食べごろに収穫できるよう、収穫の時期になると毎日のように山を訪れ、タイミングを見極めます。灰茶色のイメージが強いまいたけも、「黒っぽい色から薄茶色に変化した時が食べごろで最高においしい」と門脇さん。失敗を重ねながらも長年培った経験が、極上のきのこを育みます。
「きのこは山の木を土にかえす役割がある。だからきのこ作りっていうのは山の恵みを循環させて山を守ることでもあるんだ」と門脇さんは語ります。

しいたけ

自然のままの環境で育てられた原木きのこはとても大きく、しいたけは大人の手のひらほどあります。今まで見たこともないような大きさやしっかりした食感、風味に驚く人も多いとのこと。

門脇さんと北沢正和さん

「丸中ロッヂ」の名物が素材の味を生かした、極めてシンプルな調理で楽しむきのこ料理。「ミネラルを多く含み、雪解け水で潤った黒土が育むきのこや山菜はひと味もふた味も違う」と門脇さん(写真右)。「職人館」の北沢正和さん(写真左)との親交も深く「山菜だけじゃなく、クロモジみたいな天然のハーブとか大地の恵みをたっぷり含んだ白樺の樹液とか、山は貴重な食材の宝庫。門脇さんのきのこもその宝のひとつだよなぁ」と北沢さんは絶賛します。

[丸中ロッヂ]
下高井郡野沢温泉村豊郷4424-2 TEL 0269-85-2157


「きのこは木の子」森の恵みで育むえのきたけ

えのきたけ

株式会社丸金(長野市)

長野県産が全国流通量の6割以上を占めるえのきたけ。昔はオガ粉(木の粉)を使った培地(きのこが育つ菌床)が使われていましたが、近年は収量を大きく伸ばせる安価な外国産コーンコブ(トウモロコシの芯)を砕いた培地が主流です。そんな中、今でも国産材を粉砕し、1~2年熟成させた培地できのこ作りをしているのが、長野市の「丸金」。多くの生産者が低価格化や効率化を求めて栽培方法を変える中、えのきたけを通じて人と地球の健康・幸せに貢献することを使命に掲げる同社は、えのきたけ生産をはじめた1972年以来、手間を惜しまず変わらぬ製法を続けています。

「きのこは『木の子』といわれるように、自然界では森の切り株や倒木から生え、光合成ができないので育つ木が命。だから当社では“木の子(木の粉)”にこだわり、天然きのこが育つ本来の環境やおいしさを追求し、昔ながらの育て方を続けています」
こう話すのが、専務の金子敬介さん。森の恵みを含んだえのきたけは甘い芳香が漂い、茎が太くしっかりしていてシャキシャキとした食感が楽しめ、風味も豊か。煮汁もコーンコブを用いたえのきたけは黄色くなりますが、同社のものは澄んでいるので、料理もほかの素材の彩りを邪魔しません。そして、国産材の間伐材を活用してオガ粉を作っていたり、使用する原材料も明らかなことから、安心安全や環境にこだわるミシュラン星付きレストラン、高級旅館のほか、ヴィーガンのための自然食レストランの食材にも採用されています。

培地

また、栽培室は天然えのきが育つ環境をめざし、厳しい自然環境と同様の温度や湿度、明るさに設定。仕込み水も長野市戸隠の天然の湧水を使用しています。
さらに、えのきたけ収穫後の培地は100%有効活用。木質由来の培地のため、収穫後もきのこ菌が活発に活動しており、1年ほど熟成させてから畑に撒くと培地に残った菌糸が有機物を分解し、土壌の力を引き出すことから、有機無農薬野菜の農家などから引き合いがあるそう。令和元年東日本台風で被災したりんご農家にも土を寄贈しています。こうした取り組みにより、「信州ブランドアワード2019」の「健康長寿・安心」をテーマにした「しあわせ信州部門」で大賞を受賞。同社の認知度は食品業界を超え、持続可能なビジネスモデルとしても広がっています。

金子さん

培地に使用する国産材は樹齢約30年の間伐材。「森を整備して育てるために間伐材を有効活用して森の土を作り、その土できのこを作ることで、まちなかにも森の特別な恵みを多くの人々にお届けしています」と金子さん(写真右)。

えのきのスパニッシュオムレツとアスパラのえのき卵黄ソースかけ

「えのきたけは鍋料理をイメージしがちですが、季節やジャンルを問わずいろいろな料理に合うことをお伝えするために、今後は当社ウェブサイトでさまざまなえのきたけレシピを紹介していきます」と金子さん。
写真はえのきのスパニッシュオムレツとアスパラのえのき卵黄ソースかけ(北沢正和さん作)

[株式会社丸金]
長野市篠ノ井小松原2367-1 TEL 026-293-2177
https://www.marukin.jp/

INFORMATION

味つけえのき

銀座NAGANOにて一部販売中
主力の純白種えのきたけのほか、より自然の状態に近い茶色かかった原種系のえのきたけも栽培。銀座NAGANOのイベント講師でもおなじみの横山タカ子さん監修の商品開発も。


まるでオードブル!自社一貫生産の希少なきのこたち

キノコ

キノコ村(須坂市)

菅平高原の麓、自然の豊かな山里に工場を構える「キノコ村」。自社で種菌の育成から栽培、加工まで一貫して手がけています。
「種菌の育成から自社で行うからこそ細かい栽培の仕様までこだわることができます」と話すのが、信光工業(株)キノコ村事業部統括の荒井将尋さん。もともときのこ農家のためのプラント(工場の設備一式)設計・施工を請け負っていた同社は、そのノウハウを生かして30余年前にきのこ栽培に参入。現在は大量生産しにくく希少価値の高い、さまざまなきのこを栽培しています。

常時栽培しているのは「たもぎ茸」「甘シャキ味えのき」「野生種えのき」「とき色ひら茸」「ひら茸」「柳まつたけ」の6種類。「たもぎ茸」「とき色ひら茸」「ひら茸」などは初夏から秋にかけて生え、えのきたけ類は秋から冬にかけて生えるきのこです。それぞれに合わせて栽培室の温度や湿度、光などを変えて栽培環境を整え、培地の殺菌釜などの設備もいくつかは自社で製造。こうして作られたきのこは、どれも旨味成分も栄養価も豊富です。また、「野生種えのき」は山に自生していた原種のえのきたけを採取して栽培化したもの。そこに一般的な純白種えのきたけを交配して「甘シャキ味えのき」を作るなど、新品種を生み出しています。

栽培する中でもひときわ管理が難しいのが「とき色ひら茸」。初夏から秋にかけて日本の野山に自生する在来種ですが、デリケートで枯れやすく、国内でも栽培農家はわずか4~5軒だとか。魅力はなんといってもピンクの色合いの美しさで、和洋を問わず彩りを添えるような料理に使われ、結婚式での料理で使用されることも多いそう。
「種菌は栽培をやめた県外の生産者から譲り受けましたが、苦労の連続で他社がやめる理由がすぐにわかりました。試行錯誤の末、ようやく安定的に作れるようになりつつありますが、きのこはそれぞれ個性が違うため、まだわかっていないところもありますし、毎年栽培する中で新たな発見も必ずあります」

手間と情熱をかけ、これだけ多くの希少種を扱う生産者は日本に数えるほど。だからこそ、料理人からは高く評価されています。無駄なく6種類ものきのこを栽培し続けることは、ひと筋縄ではいきません。それでも「求めてくれるシェフたちのためにも、うちが作らないと」という熱意が荒井さんの原動力になっています。

荒井さん

「食べる人のおいしさや健康を考えたら、きのこもストレスをかけず元気に育てることが一番。そのために、きのこが成長したいようにのびのび生育させています」と荒井さん。一般的なえのきたけの紙巻き(まっすぐ見栄えよく伸びるよう瓶口を紙で筒状に巻くこと)も行いません。

[キノコ村(信光工業株式会社)]
須坂市野辺1883 TEL 026-246-5888
http://www.kinokomura-dayori.com/shop/

INFORMATION

各種乾燥きのこ

各種加工品銀座NAGANOにて販売中!
フレッシュな状態ですぐ加工し、おいしさや栄養を損なうことなく商品に。各種乾燥きのこはきのこが浸かるくらいの水に20分ほど浸けて柔らかく戻してから料理に使い、「乾燥甘シャキ味えのき」「乾燥野生種えのき」は水戻し不要。また「乾燥甘シャキ味えのき」はフライパンで炒るなど、一度加熱、味付けしてそのままスナック感覚で食べてもおいしく味わえます。


“幻のきのこ”の栽培に成功!長野から広がるコプリーヌ

コプリーヌ

農事組合法人シマダ(長野市)

ヨーロッパでは高級きのことされる「コプリーヌ」。つくしのような形の白く美しいきのこで、コリコリとした独特の歯応えがあって旨味が強く、どんな料理にも合うクセのない味わいです。ほぼ全世界に分布しており、日本でも春から秋にかけて草地や畑地などに自生していますが、栽培となると困難に。というのも、和名「ササクレヒトヨタケ」の名の通り、成長後はヒトヨ(一夜)で溶けてしまうほど日持ちがしないのです。そのため「幻のきのこ」ともいわれ、全国的にも栽培例が少なく、これまで継続的な生産に成功した人はいないのでは、ともいわれています。そんな中、25年ほど研究を重ねてきた長野市の農事組合法人シマダの2代目・島田英明さんが2016年に栽培に成功。今も栽培を続ける貴重な生産者です。

「先代からひらたけやぶなしめじなど木や森に生えるきのこをメインに栽培していましたが、コプリーヌは土から発生するので栽培方法が違いましたし、そもそも前例の生産者がいないので栽培理論が全くわかりませんでした。何もかも手探りで、やめたいと思うことも何度もありました」

ある時にはとうとう種まで全滅してしまったことも。それでもめげずに組織培養によって種菌から作り直し、栽培方法を徹底的に見直しました。培地の養分量を変え、培養は瓶で行うものの、その後は培地を地面のように広げ、自然に近い形で生育するようにしたのです。栽培室も分単位の空調管理で人工的に昼夜の寒暖差を生み出し、生育を促進。収穫後は真空包装にすることで酸素による成長と変質を防ぎ、美しい形状を保ったまま出荷しています。こうして今では専門店の特別なニーズを満たす存在として知られ、「コプリーヌがないと営業ができない」と話す飲食店もあるほどだとか。

「とはいえ、認知度はまだまだ高くありません。そこで、まずは見た目も食感もよくて面白さもある、一風変わったきのこの存在から知ってもらえたらうれしいですね」
どんなに困難な状況に直面しても、諦めることなく真摯にコプリーヌと向き合い、マニュアルのない道を切り開いた島田さん。市場に出回らない珍しいきのこの、これからの展開に目が離せません。

島田さん

先代から栽培を引き継ぎ、紆余曲折を経て商品化に成功した島田さん。「コプリーヌ」という商品名も「Coprinus comatus」という学名から島田さんが命名しました。

栽培風景

菌糸体が瓶内に蔓延したら、培地を広げて栽培。コプリーヌは12~25cmほどに成長すると、傘がフワフワとした食感で軸はシャキシャキ、根元はコリコリというほかにはない特徴が現れますが、この状態では保存性が低いため、小指ほどの大きさで収穫し、商品化しています。

コプリーヌのおいしい食べ方

若い状態で収穫したコプリーヌは繊維質が硬く強いためコリコリとした食感が楽しめ、マッシュルームに似ていますが、より深みやコクが感じられます。調理法はマッシュルームと同様、味の濃い煮込み料理がおすすめ。トマト煮込みや濃厚なクリーム煮、シチュー、カレーなどによく合います。飲食店では絶品きのこパスタとして提供されることも。和食の場合は炊き込みご飯など、食材の旨味がじっくり染み出るような調理がおすすめです。

絶品きのこパスタ

[農事組合法人シマダ]
長野市青木島町大塚171 TEL 026-286-2766

INFORMATION

コプリーヌ

銀座NAGANOにて期間限定で取り扱い中

この記事は2020年7月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

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