1・2階は10月末まで休業。移住・就職相談と観光案内は5階で営業中
LANGUAGE

ライフスタイル・オブ・信州ライフスタイル・オブ・信州

冬だけじゃない!長野県産「夏秋いちご」の挑戦

イメージ

真っ赤な実と甘酸っぱい味わいが老若男女に愛されるいちご。栽培は冬のイメージがありますが、実は暑い夏の時期にも作られているのをご存知ですか?夏から秋にかけて収穫が可能な「夏秋いちご」は数年前まで輸入に頼っていましたが、近年、国内でも冷涼な地域を中心に栽培が広がっており、ここ、長野県でも増えてきています。品種改良により、おいしさも増している夏秋いちごの農家をご紹介します。

安曇野で人の「心」に残る夏秋いちご作りを

吉武和樹さんと奈津子さん
最盛期は早朝から夕方まで作業が休みなく続きますが「安曇野での生活は最高」と話す和樹さん(右)と奈津子さん(左)。

NAT’s Berry field / ナッツベリーフィールド(安曇野市)
吉武 和樹さん、奈津子さん

夏秋いちごを育てたいと移住を決意

雄大な北アルプスから流れる清冽な水、豊かな土壌を持つ安曇野市。その恵まれた環境を生かし、わさびの一大産地として有名ですが、実は日本有数の夏秋いちごの産地でもあります。
夏秋いちごを育てたいと4年前にこの地に移住してきたのが吉武和樹さん、奈津子さん夫妻。

「夏秋いちご栽培ができる場所を軸に移住先を探していたときに、安曇野の『サマープリンセス』に出合い、甘味と酸味のバランスがよくおいしいこのいちごを作りたいと移住を決めました」と和樹さん。農業の高齢化が進む中、30代から40代の若い世代が多く就農していることや、夏秋いちご栽培について学べる環境が整っていたことも移住の決め手になったそうです。

「サマープリンセス」を長年育てる農家の下で1年間修業した後、「ナッツベリーフィールド」を3年前に立ち上げました。今は15アールのハウスで、長野県で誕生した「サマープリンセス」、「サマーリリカル」、「信大BS8-9(ナッツベリー)」(※)の3種に「すずあかね」と「ペチカエバー」を加えた5品種を栽培しています。

サマープリンセスにかける思い

おうちイチゴ
「安曇野の夏秋いちごをもっと身近に感じてもらいたい」という思いから、家庭で楽しめる「おうちイチゴ」の販売も開始。農場とオンラインショップ「haguhand」にて購入できます。

安曇野市で新たに夏秋いちご栽培を始める農家のほとんどが、収穫量が多く安定して生産ができる「すずあかね」から栽培を始める中、吉武さん夫妻は「サマープリンセス」から栽培を始め、1年目はこの1品種しか作らなかったそう。
冬いちごと比べると甘みが弱く、薄味とされる夏秋いちごの中で「サマープリンセス」は比較的糖度が高く、酸味のバランスもよい品種として知られています。その一方で、栽培や安定供給が難しい側面も。夏秋いちごは6〜7月と9〜10月の2回収穫のピークを迎えますが、安曇野地域では気候条件から秋の「サマープリンセス」の収穫が難しかったり、長雨が続くと実に白い部分が残り赤くならない「白ろう果」という現象が起こりやすいのです。
それでも、「栽培面での難しさはありますが、移住のきっかけとなり、思い入れもある『サマープリンセス』はこの先もずっと作り続けていきたい」と吉武さん夫妻は語ります。

安曇野の夏秋いちごをブランドいちごに

北アルプスの山々
圃場から望む北アルプスの山々。市内には夏秋いちご農家が50軒ほどあり、その数は年々増加中とのこと。

夏秋いちごの収穫シーズンはウエディングシーズンと重なっており、特に9~10月の需要が高く、ホテルのほか、製菓店やパン屋など業務用として出荷されることがほとんど。「ナッツベリーフィールド」のいちごはJAあづみを通して、主に関西方面の市場に出荷されます。見栄えが悪いものは自社で品種ごとのジャムに加工して販売。それぞれの品種の味わいの違いを楽しむことができます。

「今後は安曇野の夏秋いちごを全国に知られるブランドいちごへと育てていけるよう、エンドユーザーである消費者にも届けるなど、広く発信していきたい。そして、いつか、『ナッツベリーフィールド』のいちごで安曇野に少しでも貢献できたら」と話す奈津子さん。新たな品種の栽培のほか、いつかは農園内に自身のお店を構えたいとの夢を持つ、吉武さん夫妻のこれからの展開に目が離せません。

ジャム

加工品の一部は銀座NAGANOでも販売中!「おとなジャム」はお肉料理にもぴったり。

いちご5種

「すずあかね」、「ペチカエバー」をそれぞれ4割、「サマープリンセス」、「サマーリリカル」、「ナッツベリー」を2割栽培。
「サマープリンセス」の弱点を克服した品種の「サマーリリカル」は、昨年20本、今年200本、来年は1棟と、生産を増やしていく予定とのこと。

※「信大BS8-9」はさまざまなブランド名で生産されており、「ナッツベリーフィールド」では「ナッツベリー」との名称で生産しています。

[NAT’s Berry field(ナッツベリーフィールド)]
安曇野市三郷明盛3864 TEL 0263-75-3097


農福連携によるいちご栽培を目指して

信大BS8-9
最果心が赤く色付く「信大BS8-9」は、ケーキへのトッピングにも最適。

株式会社コトブキファームデポ(小諸市)
石坂 恭(やすし)さん 業務推進課課長

小諸市初の「信大BS8-9」

一説では「いちご生産発祥の地」ともいわれる小諸市。明治30年ころ、同市の御牧ヶ原で野生のいちごの群生が見つかり、西洋よりいちごジャムが入ってきたことも相まってジャム用いちごとして脚光を浴び、栽培が定着しました。

そんな小諸市に2019年6月に設立されたのが株式会社コトブキファームデポ。農業を通じて「もっとおいしく!もっと豊かで前向きな日常を作り出す」ことを目指し、主に夏秋いちごとブルーベリーを栽培しています。2棟10アールのハウスを有し、今年の3月に小諸市では初めてとなる約5,000株の「信大BS8-9」を定植、栽培を開始しました。

ミツバチ
ハウス内にはミツバチが飛び交っており、自然な方法で受粉が行われています。

「信大BS8-9」は信州大学工学部の大井美知男特任教授が平成初期から研究開発し、2011年に品種登録された夏秋いちご。夏の高温下でも高い糖度を保ち、甘さと酸味のバランスがよく、形もよいことから業務用として需要が高く、パティシエの人気も高い品種です。

大井教授からの指導による栽培

石坂恭さん
「“小諸にこのいちごあり”といわれるようないちごに育てたい。そのためにも地元の人に、このいちごのよさを知っていただければ」と石坂さん。

コトブキファームデポでは、昨年から「信大BS8-9」栽培のノウハウを学ぶなど、栽培に向けた準備を進めてきました。現在栽培に関わるのは、社長、専務、圃場長である石坂さんのたった3名で、昨年まで誰も農業の経験がなかったのだそう。未経験ながらも品質管理は徹底して行っており、「信大BS8-9」の生みの親である大井教授には365日、その日の生産状況や水素イオン指数(pH)などの数値をメールで報告。数値に少しでも異常があれば、大井教授がすぐに畑に駆けつけてくださるとのこと。それでも形が均等でなかったり、味も安定しなかったりと苦労が絶えませんが、「大井教授は“自分の研究にもなるから”と懇切丁寧に指導をしてくれるので本当に助かっています」と石坂さんは話します。

手探り状態の中、6月から始まった「信大BS8-9」の収穫。石坂さんは毎朝4時ごろには圃場へと出勤し、6時ごろまで1日約30〜40kgのいちごを収穫します。

農福連携で高齢者の自立支援も

圃場風景
圃場は小諸市の小高いエリアに位置し、八ヶ岳や天気のよい日は富士山も望めます。

コトブキファームデポの主な出荷先は小諸市のほか、近隣の軽井沢町、佐久市の洋菓子店や和菓子店、ホテルなど。「現在は長野県工業技術総合センターと共同研究でのセミドライフルーツの開発や、長野市の事業者と連携したアイスクリームやジェラートの開発なども進めており、加工品の販売も実現していきたい」と石坂さん。

今後は親会社で有料老人施設などを運営する株式会社コトブキと連携し、高齢者等が農業分野で活躍することを通じ、生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みである「農福連携」による生産も進めていく予定だそう。「デイサービス利用者の自立支援の一環として、定植、日常管理、収穫、販売まで手がけてもらい、仕事と給料を得ることを通じて生きがいや、やりがいを感じてほしい」。そんな思いがあるのです。
コトブキファームデポの「おいしいいちご作りを通じた農福連携の実現」に向けた挑戦は始まったばかりです。

いちごとハウス内

肥料の濃度や施肥のタイミングは機械で管理されており、1日3~4回パイプを通じて液肥が施されています。(写真左)
「四季成り性品種」のいちごは日照時間が長いほど花芽の分化が促進され収穫量が増えるため、夜間もハウスにはほんのりと電気が照らされます。(写真右)

[株式会社コトブキファームデポ]
小諸市大字市790-15 TEL 0267-23-1510


長野県と夏秋いちご
いちご

いちごは、冬から春に収穫時期を迎える「一季成り性品種」と年間を通じて栽培可能な「四季成り性品種」に大別され、「四季成り性品種」のうち6月から11月に生産されるいちごの総称が「夏秋いちご」。
長野県では2001年頃から夏秋いちご栽培が始まり、2003年に南信農業試験場(当時)が「サマープリンセス」を開発したこともきっかけとなり、徐々に栽培が拡大していきました。長野県野菜花き試験場が「サマープリンセス」の後継種として2018年に開発した「サマーリリカル」や信州大学による「信大BS8-9」の開発など、官・民・学それぞれによる新品種の開発も行われています。

この記事は2020年9月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

Lifestyle of Shinshu