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令和元年東日本台風から1年 もう一度“おいしい”を届けるために

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日本全国に甚大な被害をもたらした令和元年東日本台風。長野県では千曲川流域を中心に各地で河川の氾濫や土砂災害が発生し、大きな爪跡を残しました。しかし、多くの人々の支援は被災者の方々の勇気にかわり、復興の過程で育まれた支え合いや助け合いの心、出会いは大きな財産となり、今も温かく残っています。あれから1年。今回はそんな災害からボランティアや地域の方々などの多くの力も借りながら、懸命に立ち直り、歩みを進める千曲川流域の生産者さんを訪ねました。

10年後、20年後も長沼でりんごを作り続けたい

近隣地域のパートの方々
剪定、草刈り、消毒などを除き、基本的な作業を担うのは近隣地域のパートの方々。地域の雇用を確保することも「ぽんど童」は大切にしています。

長沼林檎生産組合 ぽんど童(長野市長沼)
組合長 徳永 慎吾さん

長野市長沼地区。明治30年代頃からりんご栽培が行われ、この地区を通る国道は通称「アップルライン」とも呼ばれるほどりんご畑が広がり、多くの直売所が軒を連ねる県内有数のりんごの産地です。この一帯は「令和元年東日本台風」で甚大な被害を受けたエリア。地区の東側を流れる千曲川の堤防が決壊。その浸水深は最大約4.3m(推定)ともいわれ、多くの住宅や施設、そしてりんご畑等が水害にあいました。

この長沼地区でりんご畑を守る取組みを行うのが「長沼林檎生産組合ぽんど童(以下ぽんど童)」。有休農地が増加している状況に危機感を覚えた若手農家10名が2010年に設立した、産地を守ることを目的とする全国的にも珍しい生産組合です。各自が所有する畑とは別に、「ぽんど童」として約2ヘクタールの畑を管理。主力品種のふじなどと収穫時期をずらし、繁忙期を分散させるため、夏あかり、紅玉、秋映、スリムレッド、グラニースミスの5品種を栽培しています。また同地区の被災した広大なりんご畑の復旧のために農業ボランティアの指揮をとるなど、長沼地区の復興においても重要な役割を担ってきました。

「泥に埋もれた木を見た時には、もうこの地でりんごは作れないのではとも思いましたが、ボランティアの方々のおかげで徐々に前向きになれました」と話すのは、組合長を務める徳永慎吾さんです。

浸水したりんご畑
災害から間もない、泥を撤去する前の長沼地区のりんご畑。浸水したりんごは衛生的な問題から出荷ができず、多くのりんごが収穫されずに畑に残されていました。

「ぽんど童」の畑にも3m近くの水が押し寄せ、水が引いた後の畑には約20cmの泥が堆積。近隣の住居から流れ着いた家財道具も散乱していたそう。収穫を目前に控えたスリムレッドやふじなどは浸水し、出荷することができませんでした。

そして農業の再開に大きな障壁となったのが、この堆積した泥。樹木の根の呼吸を妨げるほか、農機具での作業ができなくなるため、りんごが芽吹き農機具での作業が始まる3月までに泥の除去作業を終えられるかが、今年もりんごが作れるかのポイントでした。当初は到底不可能なのではと途方に暮れる状態でしたが、全国から駆けつけたボランティアの協力をはじめ、懸命な復旧作業が進められ、今年のりんご栽培につながりました。

徳永さん
「今後は地域外の人たちと一緒にりんごを栽培する体制も構築し、やむを得ず更地となってしまった畑も引き取り、りんごを定植していきたい」と話す徳永さん。

復興の過程で、新たな思いも芽生えたそう。被害を逃れたりんごを食べたボランティアの人々からの「りんごってこんなにおいしいんだ」と感動の言葉を聞いた徳永さんは、うれしく思うとともに、信州のりんごのおいしさを知らない人が大勢いることに気づいたといいます。「今後はりんごを作るだけではなく、おいしさを伝える活動もしていきたい」と展望を話します。

今年は「恩返し」の思いを強く持ち、りんご栽培に向き合ってきたという徳永さん。そんな最中に発生したのが新型コロナウイルス感染症による問題です。
「ボランティアの方々との関係は今後も大切にしていきたい。また畑にお越しいただき、みなさんのおかげで今年はこんなにたくさんのりんごがなっている様子を見てもらいたいのに、それができないのがすごく残念」と話す徳永さんの言葉からは悔しさがにじみ出ます。

ぽんど童」の看板
「ぽんど童」の畑の目印となる看板。看板の裏面には訪れたボランティアの人々の名前が書かれた木札が掛けられています。

「10年先、20年先もりんごを栽培しながら生活していきたい。些細なことなのかもしれないけど、昨年の災害発生時には無理なのではないかと思いました。この地でりんご栽培を続けていくことが、僕たちができる一番の恩返しです」
多くの人々の助けのもと、復活を遂げた長沼地区のりんご畑。「ぽんど童」は今日もりんごの実る長沼地区の風景を守るため、日々りんご栽培と向き合っています。

りんご

甘みが強く、果汁の多さが特徴の「秋映」。長野県生まれのオリジナル品種で「シナノスイート」、「シナノゴールド」と合わせて長野県「りんご三兄弟®」とも呼ばれています。(写真左)
俵型の小さめのリンゴで、“丸かじりりんご”としても人気の「スリムレッド」。10月末に収穫し貯蔵され、1~2月頃から出荷されます。(写真右)

[長沼林檎生産組合 ぽんど童]
長野市赤沼1694 TEL 090-7840-3552

INFORMATION

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被災地の復興、進んでます

長野市穂保の堤防

長野市穂保の堤防

堤防の決壊箇所はほぼ復旧し、その他の箇所も着実に復旧が進んでいます。
(写真提供:国土交通省北陸地方整備局千曲川河川事務所)

上田電鉄別所線 千曲川橋梁

上田電鉄別所線 千曲川橋梁

橋台の構築や橋脚の補強は完了し来年3月28日(予定)の全線運行再開を目指し、復旧工事が進められています。
(写真提供:上田電鉄株式会社)

令和元年東日本台風では農産物のほか家屋やインフラなども大きな被害を受けました。今も各地で家屋の再建や復旧工事が着実に進められています。


甘味があって太く大きな自慢の松代の長芋を食べてほしい

長芋畑
松代町岩野地区は長芋の産地。10月に入ると葉が紅葉し、一帯がオレンジ色に。

長野市松代町
山﨑 善文さん・純子さん

長野市松代を含む千曲川沿岸の沖積地帯(砂地)は、1m掘っても石が出ない土壌であることから古くから長芋栽培が行われ、昭和40年頃には全国の長芋の6割が松代産だったとか。時代とともにほかの野菜や果樹類への品目転換が行われましたが、松代は今でも長野県内では山形村に次ぐ長芋の一大産地です。

そんな松代も昨年の台風では甚大な被害を受けました。松代を含む長野市の南部を管轄するJAグリーン長野によると、管内60ヘクタール中、40ヘクタールの長芋畑が被災。収穫直前の長芋が土ごと流されたり、折れたりするなど大変なものでした。

被災直後の長芋畑
被災直後の長芋畑の状況。土がえぐれて収穫前の長芋が全滅してしまったところも。

「うちの畑には川の土が2m近く入ってね。水は入るとは思っていたけど、あまりの荒れ具合に途方に暮れちまったなぁ」

こう話すのは、堤防内外に約1ヘクタールの長芋畑を持ち、この地で40年以上も長芋を栽培する山﨑善文さん。先代より上流で200mmの雨が降ると堤防が水でいっぱいになると聞いていましたが、台風の日はそれを大幅に上回る雨が降っていると聞き、不安を募らせていたそうです。水が引いた後の堤防内の畑は、長芋の支柱が倒れたり埋まったりとかつてない荒れようを呈していました。同じ松代町内でも、場所によっては2m近く土がえぐれてしまったところもあったそう。

山﨑善文さんと純子さん
妻の純子さん(右)が重機を操作し、善文さん(左)が掘る収穫作業ももうすぐ。

山﨑さんは復旧に向け、まずは倒れてしまった支柱を片付けるところから着手しました。支柱を1本1本引っ張り上げ片付けた後、重機で整地し芋を掘るという一連の作業が年末まで続き、ものすごく骨の折れる仕事だったとのこと。

その一方で水が入ると土地が肥沃になる面もあるため、今年の長芋に期待を持つ人も少なくありません。松代の長芋は長くて大きいのが特徴で、甘味が強いといわれ、すったときの粘りは他産地と比較し少なめですが、あっさりと食べられ、毎日食べても飽きがきません。芋の中央部はオーソドックスにとろろに、端っこの部分はたたきや、梅酢漬けがおすすめだとか。

被災直後の長芋畑
長芋の試し掘りをする山崎さん。1〜2mほどの深さまで掘り進めます。

「去年は大変だったけど、大きく、しっかりした芋になるようにこだわって作ってきた」と山﨑さん。おいしい松代の長芋が全国各地の家庭へ届く日も、もう間もなくです。


社員みんなで乗り越えた災害
これからは幹を太く

宮城恵美子さん
松木の花屋の商品は地元・国産野菜にこだわり、保存料・着色料不使用。

有限会社宮城商店(千曲市)
専務取締役 宮城 恵美子さん

千曲市に工場と本店を構える漬物製造の老舗、木の花屋(宮城商店)。昨年の災害発生時、千曲市では「霞堤(かすみてい)」※からあふれ出た水が市街地まで流れ込み、木の花屋の工場も床上約70cmの浸水被害にあいました。

「丹精込めて作った商品が泥だらけとなり、捨てなければならず胸が痛みました」と話すのは、専務取締役の宮城恵美子さんです。

被災直後の長芋畑
きゃらぶきの選別作業の様子。災害時の支援をきっかけに新たな交流も生まれました。

工場内の機械は浸水被害により故障。漬物製造の要となる「真空包装機」も復旧に2〜3カ月かかるといわれ、繁忙期を目前に途方に暮れる中、救世主が現れます。同業者が自社の機械部品を外して貸してくれたのです。このほか、なんとライバルだと思っていた会社も「瓶詰機」を貸してくれたこともあり、3週間で機械は復旧、1カ月で製造体制が整いました。「敵に塩を送っていただいて…との言葉がふと口からこぼれましたが、『敵じゃないんですよ』との言葉をいただき、涙があふれました。千曲川流域で助け合う意識なのでしょうか、本当に元気をいただけました」と宮城さんは当時を振り返ります。

自社農場
県内3カ所に自社農場を有し、伝統野菜の戸隠大根・野沢菜・王滝かぶなどを栽培。

そんな矢先、今度は新型コロナウイルスが襲いかかります。直営の2店舗が善光寺門前、軽井沢と観光地にあることもあり、売上は激減。「作れるようになったのに売れずに賞味期限が迫る状況は、災害とは違う怖さがあった」と話します。

10年前からISO22000※を取得している宮城商店。安心・安全な商品作りのためスタッフ同士の情報共有を大切にしており、日々培われたこのチームワークが災害からの復旧と苦境からの脱却を後押ししました。毎日2回スタッフ全員で集まり、「今できることは何か」を常に考え、うまくいかなかったこともすぐに共有、修正するなど行動に移しながらこの難局を乗り越えたことが今では大きな自信となったそう。

被災直後の長芋畑
人気の「みょうがの梅酢漬」はご飯と混ぜるとやさしいちらし寿しのような味わいに。

そんな状況下、自社商品を社員みんなで見つめ直すうちに、木の花屋の商品は「日常生活に寄り添った商品」だと改めて感じたといいます。そして、「地元のみなさまにももっと召し上がっていただければ」と、食べ方やおすすめのセットなどSNS等を用いた情報発信も積極的に展開。漬物という枠組みを超えた「ご飯のお供としての商品展開」と、伝統野菜や季節感にこだわった「信州ならではの野菜の保存食」、この2本の「幹」を育てるべく、スタッフとともに走り続けます。

※霞堤:川のエネルギーを分散するためあえて堤防を作らない部分を残した不連続の堤防。
※ISO22000:国際的な食品安全マネジメントシステムの規格

[木の花屋]
千曲市大字中355 TEL 0120-86-5878
https://www.konohanaya.co.jp

INFORMATION

「みょうがの梅酢漬」や人気の「炊き込みきのこごはんの素」など銀座NAGANOでも販売中!

この記事は2020年10月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

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