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信州の冬の必需品 こたつ、日本茶、野沢菜漬け!

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「信州の伝統野菜」、野沢菜。発祥の地・野沢温泉村では古くから「蕪菜」、「菜っ葉」の名で親しまれており、その漬物の味や製法は各家庭ごとに引き継がれてきました。地元では「おはづけ」と呼ばれていた菜っ葉の漬物は、そのおいしさに感激した旅行客などにより地名のついた「野沢菜漬け」の名で全国に広まり定着していったといわれています。今回は野沢菜漬けの故郷、野沢温泉村を訪ね、そのルーツやこだわりを伺いました。

暮らしと共にある野沢温泉の“おごっつぉ”

竹井孝子さん
自分の畑で栽培する野沢菜を収穫する竹井さん。今シーズンは9月上旬に種をまき、2カ月ほどで収穫を迎えたそう。

野沢温泉郷土料理研究会
会長 竹井 孝子さん

長野県内でも有数の豪雪地帯の野沢温泉村。国内外からスキーヤーやスノーボーダーが訪れるほか、古くから日本屈指の湯治場として知られ、多くの旅行客が訪れています。村内には30余りの源泉が自噴しており、90度近い熱湯が湧き出す泉源地の「麻釜(おがま)」は村指定の天然記念物。野菜や卵を湯がく様子が見られるなど、「野沢温泉の台所」としても親しまれています。

松葉の湯
民宿「米太郎」近くの外湯「松葉の湯」は2階建て構造で、1階(半地下)に温泉水の洗濯場が設けられています。

そんな源泉かけ流しの外湯(共同浴場)が村内に13カ所ありますが、野沢菜収穫時期の11月初旬になると、期間限定で半分ほどが野沢菜を洗う「お菜洗い」のために解放され、それぞれの湯船や併設の洗濯場で老若男女問わずにお菜洗いをする村人の姿があちらこちらで見られます。

漬け樽
かつての味噌樽で漬けていた頃の味わいを出すため、竹井さんは塩と唐辛子に加えて少量の醤油を入れて漬けているのだとか。

「昔は各家庭で味噌を造っていてね、私の実家でも嫁いだ竹井家でも仕込んだ味噌を秋になったら樽から出し、味噌が付いたままの樽に、収穫してから温泉で洗った野沢菜に塩をふって漬けていました。桶の手入れがなかなか大変で、最近はプラスチックの桶で漬ける家がほとんどだけど、樽に残った味噌が“甘もっくり(※1)”とした味わいを醸し出すの」
こう教えてくれたのは、村内で民宿「米太郎」を営む傍ら、野沢温泉郷土料理研究会の会長を務める竹井孝子さんです。

同研究会は「村民に親しまれてきた郷土料理を後世や村外からきたお嫁さんへ伝えたい」との思いを持つ人たちが集まり、12年ほど前から活動をスタート。現在は8人のメンバーで、野沢菜入りコロッケなど郷土料理をいかしたレシピ開発や、村内で開催される朝市での料理の販売、銀座NAGANOでもおなじみの郷土料理研究家・横山タカ子先生を講師に招いた村民を対象とした講習会や小学校での料理教室の開催といった活動をしているほか、「野沢のおごっつぉ(※2)」というレシピブックも作りました。野沢菜を使った料理をはじめ北信濃に根付く郷土料理が多数掲載されています。

蕪の部分
切り落とした野沢菜の蕪の部分もきれいに洗って調理します。

「野沢菜漬けは、塩辛ければ野沢菜を追加し、塩味が足りないと思ったら塩を足すなど、漬けている間は毎日愛情を込めて手を入れてあげることが大切。私のお姑さんも本当に丁寧に漬けていて、野沢菜を宝物のように感じているんだなと思っていました」と話す竹井さん。毎年800kgほどの野沢菜を漬け、自身の民宿の宿泊客に振る舞うほか、親戚や知人に送っているのだそうです。民宿に併設された食堂は冬期間のみ営業。野沢菜漬けを油炒めや餃子、チャーハンなどにアレンジした料理を提供しています。漬物を苦手と感じる方も多い外国人旅行客にも、これらの野沢菜のアレンジ料理は人気があるのだとか。

時漬
野沢菜を小さく切って、醤油やみりん、砂糖などで味付けし、短期間漬け込む「時漬(ときづけ)」もお客様からの評判がよいそうです。

スキー客も次第に減ってくる3月を過ぎた頃には、発酵の進んだ野沢菜漬けを料理に使うようになります。昔は酒粕で煮て食べる家庭も多く、その香りが春の風物詩だったとか。その他、春、花が咲いて茎が伸び始めた頃のやわらかくほろ苦い「とう立ち菜」、地元では「鯛の刺身よりおいしい」といわれ、麻釜で湯がいたりおひたしにして食べる秋の「間引き菜」、そして1〜2カ月しっかり漬け込む冬の「野沢菜本漬け」と、野沢温泉村の人々は四季折々の野沢菜の味わいを楽しんできました。

ライフスタイルの変化などから、村内でも野沢菜を漬けない民宿や家庭も増えてきているとのこと。それでも、「いつかは郷土料理を提供する食堂を郷土料理研究会のメンバーで開けたら」と語る竹井さんたちの、郷土の“おごっつぉ”を次世代に伝える活動はこれからも続いていきます。

※1 甘もっくり:「まろやかな旨み」を表す長野県北部の方言
※2 おごっつぉ:長野県北部の方言で「ごちそう」の意味

[民宿 米太郎]
下高井郡野沢温泉村9459 TEL 0269-85-2540
http://www14.plala.or.jp/yonetaro


種作りから始めるこだわりの野沢菜漬け作り

富井義裕さん
村内のご家庭と同じような漬け方が逆にこだわりになっています」と語る富井さん。

有限会社とみき漬物
代表取締役 富井 義裕さん

種作りから製造まで一貫した野沢菜漬けの自社製造を行う「とみき漬物」。
「1964年の創業当時、村内の土産物店といえば温泉饅頭を販売する1軒のみ。民宿に泊まったお客様の中には、『宿の野沢菜漬けがおいしかった』とお持ち帰りを希望する人も多かったことから、お土産物として野沢菜漬けを作ってくれないかと土産物店の知り合いから声をかけられたのが、当社が製造を始めたきっかけです」と話すのは、2代目で社長の富井義裕さんです。

収穫の様子
収穫の様子。蕪を切ったり、まとめたりといった作業が進められていました。

原料にこだわる同社では、野沢菜発祥の地である健命寺から種をもらい受けるほか、自社の専用畑で育てた在来種の種から栽培した野沢菜を使用。
「在来種は味わいがある反面、連作により収穫量が安定しないなど栽培面の難しさもあります。よい野沢菜作りにはよい土が必要と、土作りにも力を入れています」と富井さんは話します。

仕込みの様子
仕込みの様子。塩のみで漬け込み1~2カ月じっくり熟成させます。

収穫した野沢菜は温泉水を使って、塩のみで2度仕込みをするのも同社の特徴で、漬ける期間の長い2度目にはミネラル豊富な平釜鳴門のあらじおを使用するこだわりぶり。旬や季節感も大切にしており、3〜10月頃には春菜を2~3週間漬け込む「浅漬け」、11~2月頃には「氷冷蔵造り」(商標登録)で1~2カ月間漬け込む「本漬け」、12~5月頃には野沢温泉村の冬の気候の中で自然に熟成発酵させた「べっこう漬け」を販売。「氷冷蔵造り」とは野沢温泉村の2月の平均気温と同じマイナス3度の環境下でじっくり熟成させる製法で、同社の「家庭の味にできるだけ近づけたい」という思いから生まれました。

そんな同社の野沢菜漬けは、「信州の伝統野菜」を原料とした加工品で、伝統的な作り方や伝承の味を尊重している商品であることの証でもある「伝承地栽培認定証票」の使用を認められるほどです。

野沢菜漬
野沢菜のこりっこりとした歯ごたえを楽しむには3~4cmに切って食べるのがおすすめ。

近年注目が高まる植物性乳酸菌による発酵食品でもある野沢菜漬け。同社の「べっこう漬け」は一般的な野沢菜漬けよりも強い酸味があり、それに驚いたお客様からお叱りを受けたこともあったそうですが、この酸味は乳酸発酵が進んでいる証で、地元ならではの味と大絶賛する根強いファンも多いのだとか。
今シーズンは天候に恵まれたことから、近年まれに見るよい野沢菜を、甘みの乗った状態で収穫できたとのことです。信州を代表する味覚、野沢菜漬けをみなさんも楽しんでみませんか。

[有限会社とみき漬物]
下高井郡野沢温泉村4608-1 TEL 0269-85-3116
https://www.nozawana.co.jp/

INFORMATION

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野沢菜漬けの新たな食べ方を提案

岸孝さん
「味付けについて、自分の感覚が受け入れられていることはうれしいし、『野沢菜ラー油』は辛さ控えめなので、お子様にも食べていただければ」と話す岸さん。

のざわおんせん野沢菜漬生産組合
組合長 岸 孝さん

1984年に山村振興事業により設立され、野沢菜の浅漬けや本漬けをメインに10種類以上の加工品を製造する「のざわおんせん野沢菜漬生産組合」。
村内でも年々野沢菜を漬ける量が減っているといいますが、同組合の加工品の人気は高まっており、特に「野沢菜ラー油」と「辛口ラー油」は3年ほど前にテレビ番組で紹介され爆発的な人気に。

「『野沢菜ラー油』に使う野沢菜は長野県北部地域のものを使用しています。すべてを野沢温泉村産としたい気持ちもありますが、ある程度の量を確保するために村内のほか、近隣地域の信頼する農家さんに生産していただいているんです」と話すのは組合長の岸 孝さんです。

「野沢菜ラー油」と「辛口ラー油」
「野沢菜ラー油」と「辛口ラー油」。ご飯のお供にぴったりな一品としてテレビ番組で紹介されたことも。

「野沢菜ラー油」は10年ほど前の “食べるラー油ブーム”の時に岸さんが考案。味付けも手掛けたそうで、塩味ベースにフライドガーリック、オニオン、ショウガを加えた香ばしさの際立つ一品です。ご飯のお供はもちろん、茹でたてのパスタに和えたり、中華麺に絡めて食べてもおいしく、アレンジしやすい味なので、工夫次第でいろいろな使い方が可能。「辛口ラー油」は醤油ベースで甘じょっぱめの味に強めの辛さを加えたことで「野沢菜ラー油」とは異なる味付けとなっており、冷やし麺に乗せて冷やし坦々麺のように食べたり、お酒との相性も抜群でおつまみにもぴったり。いずれもそのおいしさからリピーターも増えている人気商品で、時には生産が追い付かないこともあるほどだとか。

瓶詰めの様子
「野沢菜ラー油」の瓶詰めの様子。各種商品は手作業にこだわって生み出されています。

設立当初から手作業にこだわった製造を行う同組合。自社カタログを持たず、宣伝広告も行わないのに好調な売れ行きを維持しているのは、素材にこだわり、丁寧に作っていることも理由なのかもしれません。

「冬の繁忙期にはアルバイトさんを雇うこともありますが、現在は6名ほどのスタッフで運営しています。今後はマンパワーを増やし、生産量や商品ラインアップも増やしていきたいし、幅広い世代の方々に当組合の商品を試していただけるとうれしい」と話す岸さん。
時代とともに変化する嗜好にあわせた新たな商品を生み出すべく、「のざわおんせん野沢菜漬生産組合」の挑戦は続きます。

[のざわおんせん野沢菜漬生産組合]
下高井郡野沢温泉村平林1219 TEL 0269-85-3771
http://www4.plala.or.jp/ohazukeya/

INFORMATION

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石碑

野沢菜コラム

諸説ありますが、1756年に野沢温泉村の名刹・薬王山健命寺の8代目住職・晃天園瑞和尚が京都へ遊学した折、「天王寺蕪」の種を持ち帰って畑に蒔いたところ、野沢温泉村の気候、風土によって変異し、葉、茎、蕪が大きくなったものが野沢菜だといわれています。野沢温泉村や「いいやま菜の花まつり」が開催されるお隣の飯山市などの周辺地域で、春の到来を告げる黄色い「菜の花」といえば野沢菜の「菜の花」を指すのだとか。

この記事は2021年1月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

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