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信州ブランドアワード2020大特集 信州ブランドを支える珠玉の逸品

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長野県ならではの自然や風土に育まれた優れたブランドを選定・表彰する「信州ブランドアワード」。ブランドづくりの輪を広げる活動の一環として、2004年からスタートし、毎年設定されるテーマに沿って信州ブランドの価値向上に貢献するブランドを表彰する「しあわせ信州部門」と長野県のデザインのレベルアップを牽引するデザインを表彰する「NAGANO GOOD DESIGN部門」の2部門が設けられています。今回は、第17回目を迎えた信州ブランドアワード2020において受賞を果たした、今後の信州ブランドを形づくるような取り組みをご紹介します。

NAGANO GOOD DESIGN部門 大賞

信州産りんごのおいしさを世界へ

アップル&ローゼスタルト

株式会社アップル&ローゼスカンパニージャパン(安曇野市)
代表取締役社長 呉羽 英樹さん

信州産りんごで美しいバラが形作られた「アップル&ローゼスタルト」。箱を開けた瞬間、その美しさに心をうばわれ、まるで花束をもらったような気持ちになると今、人気のお菓子です。

呉羽英樹さん
社長の呉羽英樹さん。「信州産りんごの魅力をより多くの方に知ってほしい」と安曇野本店の隣に、揚げたてホクホクのりんごが入ったりんごパフェを提供する「アップルフリットアンドベイク」を4月29日にオープン。

栗とりんごの畑に囲まれた小布施町で育った社長の呉羽英樹さんは、春には白い花が咲き誇り、秋には収穫を迎えた真っ赤なりんごが辺り一面に広がる故郷の風景が大好きで、誇らしく思っていたそう。高校生の頃から海外で写真やデザインを学び、起業しクリエイティブ・ディレクターとして日本と海外を行き来する生活を送っていたある日、海外で“JAPAN FUJI”の名で販売される日本のりんごのほとんどが青森県産であることを知り、大きなショックを受けました。そこで「信州のおいしいりんごを世界中に広めたい」と青果を輸出する会社を立ち上げましたが、直後に、東日本大震災が発生。輸出規制に直面しましたが逆境にめげず、「青果がだめなら、規制のない加工品を作って信州産りんごのおいしさを伝えよう」と信州産りんごを使用したスイーツ開発に着手。おいしく見た目にも美しいスイーツとして頭に浮かんだのが、アメリカで見たバラの形をしたアップルパイでした。

りんご
手間暇かけて育てられるりんご。アップル&ローゼスタルトの花びらの色はりんごの皮からにじみ出る自然な赤色で、着色等は行われていません。

一度見たら忘れないインパクトとフレッシュな食感を目指し、約1年かけて完成したのが「アップル&ローゼスタルト」です。使うりんごは“紅玉”と“ピンクレディ”の2品種。小布施と安曇野を中心に信頼を寄せる農家と契約した専用の畑で育てられます。堆肥には自然由来のものを活用するなど作物の成長や味に大きな影響を与える土づくりにも積極的に関わり、タルトに使用するりんごも一つひとつ見定めています。

アップル&ローゼスタルト
繊細さが求められるピンセットで1枚ずつ花びらを開く作業。「より自然に近いものを」との思いから本物のバラと同様、13枚の花びらがずっしりとタルトに詰まっています。

農家の愛情がこもったりんごのおいしさを生かしながら、美しさを追求するその製造工程はまさに職人技。まずは厳選したAAAクラスのりんごを皮ごと薄くスライスし、軽くコンポートしてからバラの花びらと同じく13枚並べ、クルッと巻いてつぼみを作ります。そして地元産の卵を使ったアーモンドクリームと紅玉で作ったピューレを敷き詰めたタルト台に乗せ、ピンセットで1枚1枚、バラのつぼみを咲かせるように開いていきます。「人の手でしか生み出せない美しさがある」と手作業にこだわり出来上がったタルトは、りんごのフレッシュな食感や酸味がコクのあるアーモンドクリームやピューレと相まって絶妙な味わいを醸します。

アップル&ローゼス安曇野本店
2015年に信州らしさが五感で感じられる北アルプス山麓の旧安曇野アートヒルズ敷地内に「アップル&ローゼス安曇野本店」をオープン。

「海外で根付いている贈り物文化。日本でも海外のように、特別な日でなくとも感謝の気持ちや思いを込めて花を贈るようなロマンチックな習慣が育まれたら素敵だなと思います。このタルトをそんな“思いを伝えるための贈り物”に育てていきたい」と呉羽さん。「こんな素敵なお菓子を贈られたのは初めてで感激した」と喜びのお手紙が届くこともあるそうで、「私までうれしい気持ちになるんです」と笑顔をほころばせます。

カフェスペース
りんごを使った数々のお菓子が並ぶ店内。併設のカフェスペースではアフタヌーンティー(要予約)も楽しめます。

2019年には渋谷のスクランブルスクエアにも店舗をオープン。りんごがぎっしり詰まった本格的なタルトでありながら、本物のバラの花と同じ構造にもこだわった繊細なデザインが評価され、NAGANO GOOD DESIGN部門で最高位の大賞を受賞しました。
「今は国内中心の販売ですが、“信州のおいしいりんごを世界ブランドに”という夢は追い続けています。このタルトが、世界各地から多くの方が信州を訪れるきっかけにもなれば」 と呉羽さん。「アップル&ローゼスカンパニージャパン」は夢の実現に向けて着実に歩みを進めています。

[株式会社アップルアンドローゼスカンパニージャパン]
安曇野市穂高有明8161-1 TEL 0263-31-0655
http://apple-roses.com/


NAGANO GOOD DESIGN部門 部門賞

夢を形にした木製自転車

MOCCLE 3700/320
「MOCCLE 3700/320」(約90万円~)。オーダーメイドで製作され、完成までは3カ月ほど。

アトリエ・キノピオ(箕輪町)
安田 マサテルさん

日本アルプスに挟まれた箕輪町にある小さな自転車工房「アトリエ・キノピオ」。オーナーの安田マサテルさんは設計から製造まで全てを行う“自転車職人”で、世界最高峰の自転車レース「ツール・ド・フランス」に出走するような自転車製作も手がけています。

安田さんとご家族
安田さんとご家族の皆さん。

高校時代に自転車店でのアルバイト経験を持ち、芸術大学で金属工芸を学んだ安田さんは卒業後、「もっと面白い自転車が作れないか」と芸術の国であり自転車製造の本場でもあるイタリア行きを決意。未知なる地での名刺がわりにと作ったのが初代木製自転車「キノピオ」でした。学生時代にイタリア製の木製自転車を見かけ「こんな自転車を作りたい」と思ったのが制作のきっかけで、イタリアでは「キノピオ」をきっかけに友人ができたり、興味を持った方に助けられたこともあったそう。約10年間本場で製造技術を身につけ、結婚を機に奥様の総子さんの故郷、信州に移住。箕輪町を選んだ決め手は、住んでいたイタリア・トレントの景色に似ていたからでした。山に囲まれ、天竜川が流れ、りんご畑が広がる町の風景は安田さんにとってトレントそのものだったといいます。

工房
工房の中の様子。もともと納屋だった建物を自らの手で工房へと改装しました。

そんな安田さんが製作で一番大切にしているのはオーダーした人と会うこと。「同じ身長、体重でも筋肉のつき方や趣向が違う。必ず2回は会うようにしています」と話します。スピードや重さなど、機能を求められる自転車作りに励む日々を過ごす中、「オシャレでワクワクする自転車を作りたい」と「キノピオ」に継ぐ木製自転車を何枚もスケッチに描いていたそう。その夢の実現を手助けしたのが、自動車設計の仕事をしていた東松将也さんです。東松さんにより安田さんのスケッチから設計図が起こされ、本格的な木製自転車作りが始まりました。「移動自体を楽しむ自転車」をコンセプトに、スライスした複数の木材を貼り合わせて強度を出すなど、安田さんの集大成ともいえる発想と技術が組み込まれた「MOCCLE 3700/320」。シンプルでありながら、木の温かみが感じられる美しいフォルムは、まるで自転車に乗って出かける高揚感まで具現化されているようです。

キノピオ看板
安田さんの木製自転車製造の原点であり、工房名でもある「キノピオ」の由来は安田さんがイタリアの児童文学「ピノキオ」を言い間違えたことからなのだとか。

今後の夢はふたつ。木製自転車の強度を出すために使用する炭素繊維を岡谷産のシルクにすること。そして、その自転車に乗って家族でユーラシア大陸を横断し、イタリアまで移動を楽しみながらゆっくりと旅をすること。“Made in 信州”の木製自転車がイタリアを走る姿を思い描く安田さんの目はワクワク感に溢れています。

[アトリエ・キノピオ]
上伊那郡箕輪町福与444 TEL 0265-95-4860
http://www.kinopio.com


NAGANO GOOD DESIGN部門 部門賞

諏訪の技術が集結したオゾン発生器

RoomiAir
「RoomiAir」は「SUWAガラスの里の美術館(諏訪市)」や通信販売(諏訪プレミアムなど)で購入可能。37万4000円(税込)。

株式会社オーク製作所諏訪工場(茅野市)
芹澤 和泉さん・小林 剛さん

温かみのある木製の台、美しい曲線を描くガラスのランプから柔らかな光が放たれる「RoomiAir」。業務用オゾン除菌消臭器製造を得意とする「オーク製作所諏訪工場」を中心に、諏訪地域の企業13社の創造力と技術力が結集して生み出されました。オイルランプを思わせる曲線美のあるフォルムの装置からは、ボタンひとつでオゾンが生成され、部屋の空気を浄化する機能を持つ優れものです。

ランプ部分の加工の様子
ランプ部分の加工の様子。

精密機器産業が盛んな諏訪地域。分業でのものづくり文化が根付いており、各社の技術力は高い一方、自分たちが製造したパーツがどのように形作られるか、最終製品を知らないこともしばしばです。そんな中「地域貢献として諏訪の技術力を広く発信できるような製品開発ができないか」との思いを抱いていた「オーク製作所」。諏訪の技術力によって生まれた製品をデザイナーとの協働により高付加価値化していく新たな地域ブランド「SUWAプレミアム」の理念に共感し、地元企業の技術や匠の技を結集する一般消費者向け製品作りに取り組むことを決めました。

ウッドボディーの加工
ウッドボディーの加工は伝統的な挽物ろくろを使った木材加工を得意とする「小松工芸社」が担当。

「SUWAプレミアム」のコンセプトでもある「澄み切った繊細さ」をキーワードに、商品プランニングをローカルブランドのプロデュースを行う「Route Design」、外観デザインをデザイン設計や機器開発を行う「D.R Pocket」に依頼。ボディ部分のウッドパーツは八ケ岳産の楓を使用し、核となるランプとホヤは「オーク製作所」のガラス職人の手で作られることになりました。諏訪地域13社の技術力が詰まった細部のパーツも、熟練の職人の手作業で丁寧に組み立てられ、構想から完成まで実に3年。「凛としているけど、温かい雰囲気」を醸す「RoomiAir」が完成しました。

芹澤さんと小林さん
「このランプで生活の中に少しでも落ち着いた気分や温もりをお届けできれば」と話す芹澤さん(右)と小林さん(左)。ランプの光は癒しを与えるといわれる1/fの揺らぎを持つとのこと。

「我々に不足していたデザイン力、企画提案力など、他社のサポートがあって完成させることができました。自分たちの技術で素晴らしい製品が作れると自信にもなりましたし、日々関わる仕事の価値の再認識にもつながりました」と基礎研究部部長の芹澤和泉さん。諏訪地域の技術が結集したハンドメイド・プロダクトである点や美しく洗練されたデザインが高く評価され、今回の受賞につながりました。「“ピュアなオゾンでガラスのように透き通った空気を”という商品コンセプトのとおり、ウィズコロナの日常にきれいな空気とほっと安らぎを与えられたら」と基礎研究部の小林剛さんも大きな希望を持っています。
諏訪から世界へ、13社が結集した光が放たれています。

[株式会社オーク製作所諏訪工場]
茅野市玉川4896 TEL 0266-73-8340
http://www.orc.co.jp


しあわせ信州部門 部門賞

秘境の茶畑で育まれる信州の銘茶

茶畑から望む天竜川
茶畑から望む天竜川。

中井侍生産組合
原田 幸文さん・前田 美沙さん

長野県最南端に位置する天龍村。村の面積の9割を占める森林の中、天竜川から山に向かう峡谷の傾斜地に茶畑と民家が混在する「中井侍」という小さな集落があります。平均斜度約30度、高低差200mにも及ぶ、絶景ながらも厳しい環境下で育てられるのが「中井侍銘茶」です。

中井侍集落
「七まがり」と呼ばれる急カーブの道沿いに広がる茶畑の中に民家が点在する中井侍集落。

中井侍集落では四方を山に囲まれていることに加え、朝晩、天竜川から立ちあがる霧により自然と日光が遮られることから苦味を生むタンニンの生成が抑えられ、玉露のような甘さを持つ柔らかな茶葉が育つほか「おいしいお茶を安心して飲んでもらいたい」と、栽培は農薬不使用。

茶摘み
茶摘みの期間は村内外から手伝いの人も大勢訪れ、茶摘み歌が聞こえたりとにぎやかな風景に。

また、急傾斜で狭小な茶畑では大型機械は使えず、例年5月初旬から始まる茶摘みは手作業で丁寧に行われます。そのため生産量は年間約1,300kgと少なく、市場にもほとんど出回らないことから「幻のお茶」ともいわれるほど。

開く茶葉
花開くようにきれいに茶葉が開く中井侍銘茶。極浅蒸しが可能とする特徴のひとつ。

また「製茶の8割は蒸しで決まる」ともいわれる加工工程「蒸し」にも「中井侍銘茶」ならではの特徴があります。通常1~3分蒸す「深蒸し」が主流ですが、「中井侍銘茶」は20秒と極めて短い「浅蒸し」。柔らかく上質な茶葉のみが可能とする製法です。茶葉の形がしっかりと維持されているのも特徴で、お湯を注ぐと茶葉がふわりと開きます。淡い黄緑色のお茶からは、若葉の香りが立ち、お茶特有の苦みや渋味は控えめで、やわらかな甘味が余韻として残るのです。

前田さん
村の人々も信頼を寄せる地域おこし協力隊の前田さん。

「中井侍の人たちは災害でガスや電気が止まっても、火をおこし薪で風呂を焚くなど、動じることなく受け入れ、乗り越えられる。そんな自然とともにある暮らしぶりと、よいものを追求して50年もの間こつこつ無理なくお茶作りを続けているところ、尊敬しているんです」と話すのは、地域おこし協力隊として天龍村にやってきた前田美沙さんです。平均年齢81歳の中井侍集落では後継者問題に向き合う農家も多く、前田さんは跡継ぎのいない畑の管理も請け負っています。「前田さんが来てくれてから全体的に活気が出ました。新しい風を吹き込んでくれてみんな感謝しています」と中井侍生産組合 組合長の原田幸文さんも信頼を寄せます。

原田幸文さんと奥様の濱子さん
中井侍生産者組合の組合長 原田幸文さんと奥様の濱子さん。

前田さんは「県内にもこんな美しい景色の中、こだわってお茶を栽培していることを知っていただくきっかけにつながれば」と信州ブランドアワード2020に応募。“自然との共生”がテーマの「しあわせ信州部門」部門賞の受賞は小さな集落に新たな希望をもたらしました。

[中井侍生産組合]
TEL 0260-32-3402
https://nakaisamurai.com/

INFORMATION

中井侍茶

銀座NAGANOにて取扱中!
中井侍茶
80g 1,500円


信州ブランドアワード2020選考結果

しあわせ信州 部門

大賞
該当なし
部門賞
中井侍銘茶
中井侍茶生産者組合(天龍村)
入選

あんみつガラス・あんみつ雨戸
株式会社あけぼの通商(上田市)

甘酒ヌーボー 健美のしずく
株式会社ベストシーン(信濃町)

星秀園
星秀園(上田市)

NAGANO GOOD DESIGN 部門

大賞
アップル&ローゼス タルトシリーズ
株式会社アップルアンドローゼスカンパニージャパン(安曇野市)
部門賞

MOCCLE 3700 / 320
アトリエ・キノピオ(箕輪町)

RoomiAir
株式会社オーク製作所諏訪工場(茅野市)

入選

あんずウクレレ
Sumi工房(上田市)

鯉焼き 垂水
藤田九衛門商店(長野市)

この記事は2021年6月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

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