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日本代表シェフはなぜ信州に魅了されたのか 信州の里山イズム、世界へ

チーム・ジャパンの大皿料理
里山からインスピレーションを受けた、「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」チーム・ジャパンの大皿料理。

大自然の厳しさから暮らしを守り、四季折々の恵みを授けてくれる里山。信州の里山とその地の人々に魅了されたシェフが世界へと挑みました。

信州の里山イズム、世界へ

戸枝忠孝さんとチーム・ジャパンのメンバー
戸枝忠孝さん(中央)とチーム・ジャパンのメンバー。

Restaurant Toeda(レストラントエダ) オーナーシェフ
戸枝 忠孝さん

世界屈指のフランス料理の大会「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」。食のオリンピックとも形容され、世界中のフレンチシェフ憧れの舞台として知られています。同コンクールの国内予選で優勝し、9月26・27日に開催されたフランス本戦に挑んだのが、軽井沢の「Restaurant Toeda」オーナーシェフの戸枝忠孝さんです。

神奈川県で生まれ、両親の仕事の関係で、鹿児島県と滋賀県で暮らしていた戸枝さん。22歳で渡仏し、ミシュランガイドに名前を連ねる地方の名店を中心に研鑽を積みました。なかでも、「レジス・エ・ジャック・マルコン」での経験は「料理人生のターニングポイントだった」と話します。帰国後は都内レストランでの勤務を経て、2007年に軽井沢のフレンチレストラン「ドメイヌ・ドゥ・ミクニ」初代料理長に就任。この時、初めて信州に足を踏み入れたそうです。

「新鮮な野菜や果物に、ジビエ、きのことあらゆる食材が揃う環境は衝撃的でした。信州の方はよく『ここには海がない』と話しますが、僕は『この地にいれば、海なんていらないのでは』と感じます」

こう話す戸枝さん。3年半料理長を務めた後、独立に向け、東京と軽井沢で出店場所を探していたある日、巡り合ったのが現在の地でした。目の前に小川が流れ、木々に囲まれた雰囲気に惹かれた奥様の強い後押しもあり、この地で自身の名を冠したレストランをオープンすることに決めました。

軽井沢町
浅間山麓に位置する軽井沢町。豊かな自然の中で避暑地文化が育まれてきました。

「軽井沢で過ごしていると、“もう秋なんだなぁ”と、匂いや肌で季節の変化が感じられます。この感覚は修業を積んだ『レジス・エ・ジャック・マルコン』のあるフランス中部オーヴェルニュ地方でもよく感じていたものでした」

さらに、軽井沢での暮らしの中にも、戸枝さんは“フランスらしさ”を見出しています。
「フランスの店では、近隣住民が収穫したきのこを買い取ったり、近くの丘など自然の中からハーブ等の食材を調達することがよくありました。軽井沢でも顔見知りの信頼できる生産者からお裾分けをいただくんです。あと、シェフたちが自ら畑を訪れて農作物を収穫するユニークな販売スタイルをとる『軽井沢サラダふぁーむ』さんとの出会いにも驚きと懐かしさを感じました。そうした生産者さんからは本当に勉強させてもらうことばかりなんですよ」

信州サーモンの前菜
Restaurant Toedaのスペシャリテ、信州サーモンの前菜。

独立してしばらくは、県内で入手困難な食材を、時にはフランスから仕入れることもあったという戸枝さん。しかし、菅平高原で牛や羊を放牧で育てる「ダボス牧場」の伊藤さんや、信州サーモンを養殖する「八千穂漁業」、長和町で生ハム工房を営む藤原さんをはじめ、多くの生産者との交流を通じ、その思いに触れる中で、信州に対する思い入れも深まっていったそうです。加えて、開業から3年ほど経った頃、友人の「こんなにいい場所なんだから、信州の食材だけで調理すればいいのに」との言葉もきっかけとなり、今では戸枝さんが提供するコース料理の約9割は信州食材で構成されています。

「首都圏でも高品質な食材は手に入りますが、信州では生産者との距離が近く、育てられた過程や思いを深く知ることができ、ありがたみや尊敬の念を抱いています。このような関係性が築ける点も、信州っていいところだなと感じます」

ボキューズ・ドール国際料理コンクールの様子
(左)国を背負い、シェフたちが総力をかけて競い合うボキューズ・ドール国際料理コンクール。各国の応援団による声援が響き渡ります。
(右)5時間半の制限時間内にお題の「テイクアウト」、「大皿料理」それぞれを調理します。

この戸枝さんの思いは、2013年に同コンクールに出場し、日本人初の3位入賞を果たした現「星のや東京」料理長・浜田統之シェフの「生産者との距離が近い地方だからこそ、その優位性を情報発信するのが自分のような立場の者の役割だ」との信念とも軌を一にします。また、フランスのミシュランガイドでアジア人史上初三つ星を獲得された、長野県出身の小林圭シェフの食材と徹底的に向き合い、生産者との交流を大切にする姿勢とも通じるものがあります。

大皿料理と安曇野産わさび
(左)審査員用に取り分けられた大皿料理。朴葉を模したチュイルが目をひきます。
(右)大会でも使用し注目を集めた安曇野産わさびとすりおろし用の特注鮫肌。

そんな戸枝さんがコンクールの大皿料理のテーマとして表現したのが「里山」でした。浜田シェフらとも相談する中で「信州の自然に囲まれた環境や生産者たちとの出会いが今の戸枝さんの料理の原点だよね」と、自然と行き着いたテーマです。わさび、しいたけ、乾燥えのき、生きくらげなどの信州食材も取り入れ、大皿料理のプレゼンテーションでは朴葉を象徴的に使用。日本代表として、日本や信州をこの場でアピールできるのは自分しかいないとの思いとともに挑みました。

フランス修業時代の恩師マルコンシェフ
フランス修業時代の恩師、大会委員長も務めるマルコンシェフも「日本の精神がよく現れた、記憶に残る素晴らしい料理でした。このスタイルを貫き続けてほしい」と称賛しました。

結果は21カ国中9位。悔しさは残るものの、今回の挑戦から学んだことを今後につなげていきたいと話します。また、今回は入賞常連国の北欧諸国もわさびを使い、他の出場国でも味噌や醤油、ゆずこしょう、こぶ茶といった食材が使用されていたそう。審査員からも「フランス料理にはかつてはスペイン風、今は北欧風とブームがあるが、近いうちに日本ブームが来る。戸枝さんの地元の食材を大切にする姿勢を今後も大切にしてほしい」との激励も受け、日本食材の注目度の高さを改めて実感したといいます。

大会後の様子
大会後は小林圭シェフ、浜田統之シェフも交えて、小林シェフの店「Restaurant KEI」でメディアカンファレンスを開催。

「信州の風土や生産者の思いも、自身の料理を通じて伝えていきたいとの決意を強くしました」と語る戸枝さん。その手により、信州の食材にどのような新たな価値が吹き込まれるのか、今後の展開からも目が離せません。

シェフたちが各地を巡り“信州のテロワール”をひもとくショートムービーも要チェック!
監督:遠藤尚太郎 音楽:haruka nakamura

この記事は2021年11月時点の情報です。
取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください。

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