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時を超えて愛され続ける信州の農民芸術

時を超えて愛され続ける信州の農民芸術旅興行された歌舞伎が地域に根付き、やがて農民たちが自らで演じるようになったと言われる農村歌舞伎。農家の冬の副業として始まった農民美術。
これら農民による文化芸術は、人々に喜びや感動、心の安らぎを与えてきました。地域の誇りとして、また地域の絆を深めるものとして、現在にも受け継がれている信州の農民芸術をご紹介します。
時を超えて愛され続ける信州の農民芸術

隔絶された山里で300年の時を紡ぐ「大鹿歌舞伎」
俳優原田芳雄を魅了した農村歌舞伎の伝統美

大鹿村は、南アルプス西麓の山間地にある人口約1,000人の小さな村。人よりも鹿の方が多いといわれるこの村で、江戸時代から300年以上途絶えることなく受け継がれているのが国選択無形民俗文化財にも指定されている大鹿歌舞伎です。

毎年5月3日には大たいせき磧神社舞台で春の公演、10月の第3日曜には市場神社舞台で秋の公演が行われます。

時を超えて愛され続ける信州の農民芸術

子どもたちにもその伝統は受け継がれ、大鹿中学校歌舞伎クラブの公演は40年の歴史を数えます。

2011年には大鹿歌舞伎をテーマにした原田芳雄さん主演の映画『大鹿村騒動記』も公開。伝統美に魅了された原田さんが「これまでの芸能生活でやりたかったものがこの村にはある。ぜひこれを映画化したい」と村長に直談判したのは有名な逸話です。ここでは、今も歌舞伎が村人の心の拠り所であり続けています。

時を超えて愛され続ける信州の農民芸術80歳を超え現役で活躍する下沢さんは「一度やると、もっとこうすれば良かったって反省が生まれて、またやりたくなる。そうやって続けて来たら今日になっていましたよ」と笑います。
細かい所作に檄を飛ばすベテラン役者の上島さんは「目線とセリフ使いが大事。役になりきって、観客の目を引き付けたい」と素人の域を超えた名演技を見せます。

一方、今春の舞台には小4の子どもたちも出演。「踊りながら歩いたりするのは難しいけど楽しいよね」と立派に役者の仲間入りです。

時を超えて愛され続ける信州の農民芸術映画に感動し東京から稽古に通う鈴木さんは「集団での楽しさや厳しさ、人間らしさがここにはあるんです」と力説します。そして演者が声を揃えて語る一番の魅力は、観客との一体感。皆がこの歌舞伎を愛するからこそ生まれる空気感も昔から変わることはありません。

大鹿歌舞伎愛好会大鹿歌舞伎愛好会

役者・大道具・着付けなど舞台に携わる人たちで構成される大鹿歌舞伎愛好会の会員は約40名。地元の人々を中心に県外から参加するメンバーも。


時を超えて愛され続ける信州の農民芸術

日本最古といわれる東御市祢津の歌舞伎舞台
舞台を見るなら西宮、芝居を見るなら東町

東御市祢津地区は、200年前の文化13(1816)年に建てられ日本最古といわれる回し付き舞台「西宮歌舞伎舞台」と、その翌年に造られた「東町歌舞伎舞台」が残る貴重な場所。戦後には取り壊しも検討されましたが、地元の熱意によって保存修復されました。

「東町では昭和63年から地元の役者による公演も再開しました。だから舞台なら西宮、芝居なら東町なんて言われているんですよ」と金井さん。

時を超えて愛され続ける信州の農民芸術20年前から小学校に歌舞伎クラブもでき、舞台は地域の振興や世代間交流の場として再び輝きを放ちます。

毎年4月29日に行われる東町の歌舞伎公演は、平成8年からは途切れず開催。舞台内部は見事なケヤキの梁があり、歴史を感じさせる趣にあふれています。

金井 勝さん東町歌舞伎保存会 会長 金井勝さん

定年後、保存会の事務局を7~8年務め、今年から会長に就任。
「桜の時期は、毎年公演の準備で花見どころではないんですよ」と語りながら文化継承の一翼を担っています。


時を超えて愛され続ける信州の農民芸術

芸術家・山本鼎が残した上田発祥の農民美術
農民の手仕事が造り出す野趣豊かな芸術品

農民美術のはじまりは大正時代。上田を第二の故郷とした芸術家・山本鼎が滞在したロシアや北欧での経験から「雑木など身近な材料を使って芸術作品はつくれる」と提唱し、全国に先駆けて上田で講習会を開催。

その後、冬の農家の生業として全国へ広がりました。時代の変遷とともに農閑期の副業としての役目は終えましたが、誕生の地である上田地域では、今も16名の作家にその伝統が受け継がれています。

時を超えて愛され続ける信州の農民芸術

その作家のひとりが徳武さん。「農民美術は、木目や材木の形を活かしながら大胆に彫るのが特徴なんです。大胆でありながら雰囲気を出すのが難しくもあり、面白みでもありますね」と語ります。3年後には発祥から100周年を迎える農民美術。故郷の温もりを感じさせる生活雑貨として息づいています。

長野県農民美術連合会 会長 徳武忠造さん

中学生の頃、先輩のお父さんが生業としていた農民美術という仕事に感銘を受け、一度は会社員になるものの忘れられず転身。弟子入りからはじめ、現在はこの道40年余り。

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