商店街、温泉、酒蔵など、見どころ満載!
諏訪、ぶらり散歩のすすめ Vol.1
2022.03.15
移住者とともにつくる 懐かしく新しい町 (下諏訪町)
長野県下諏訪町。諏訪湖の北に位置し、旧中山道と甲州街道が交差する宿場町として古くから栄えました。この町の商店街を歩くと、洋装店や惣菜店といった商店街らしい店舗とともに、様々な個性を持った新しい店舗が多くあることに気づきます。
「下諏訪町は移住者を受け入れることに寛容なんだと思います。というのも、昔から住んでいる人、明治時代に製糸業の勃興とともに集まってきた人、戦後、精密機械工業の発展で移り住んだ人と住民が多層的。昔から多くの人を受け入れてきたことで、変化してきた町なんですよ」と話すのはNPO法人匠の町しもすわあきないプロジェクトの原雅廣さん。
近年の下諏訪町への移住ブームのきっかけともいえる、御田町(みたまち)商店街再生の仕掛け人です。
商店街を“ものを売る場所”から “価値を売る場所”に
諏訪地域が生糸の一大産地として成長する中、明治44 (1911) 年に誕生した御田町商店街。時代の変遷とともに、全国的にも商店街の衰退が問題となる中、御田町商店街も例外ではなく、2000年頃には商店街の約半数が空き店舗になっていました。
それが今では空き店舗が出るのを待つ人がでてくるまでに注目を集めるように。再生のきっかけとなったのは、2002年に当時の町長が立ち上げた、町内外の人々が自由に町政の課題について議論する「下諏訪町はってん100人委員会」です。
「参加者を募集する地元ローカル紙の記事が目に留まり、興味が湧いたんだよね。なんだか面白そうだなって」と当時を振り返る原さん。
子どものころ、御田町商店街をよく訪れていた思い出もあり、この委員会の空き店舗問題について考えるグループに参加することに。最初は原さんを含め5人で検討を始めました。
「活動のコンセプトを考えていたとき、町内の博物館が実施する時計づくり体験に根強いファンがつき、多くのリピーターが訪れているとの記事を読んで、ふと思ったんですよ。商店街は“ものを売る場所”と決めつけていたけど、諏訪地域はものづくりの町。商店街も、ものづくり体験など“価値を売る場所”であってもいいんじゃないかってね。ここでしか手に入らない衣・食・住の付加価値を提供する場所と捉え直すことで、商店街がよみがえるかもしれない。それで「匠の町しもすわあきないプロジェクト」というコンセプトにしたんですよ」と原さん。
商店街の仲間のお得意様に、機織り教室の開業を希望する方がいたこともあり、活動の集会場として活用していた拠点をリノベーションしてできたのが、第1号となる機織り工房「あざみ工房」です。
これがプロトタイプとなり、商店街再生に携わる仲間も徐々に増加。あるものを使い、できることから始め、情報と人脈を共有する。この3つのポイントを大切に取り組みを進めていきました。
商店街を支える「みたまちおかみさん会」
御田町商店街再生プロジェクトを成功に導いたのが、商店のおかみさんたちの集まり「みたまちおかみさん会」です。
町内のさまざまな情報を持つおかみさん会。空き店舗の情報提供や、大家との交渉の下ならし、生活に必要な手続きの手配まで、おかみさん会による“おせっかい”的な活動やおかみさん会と移住希望者とのコミュニケーションがこのプロジェクトを更に活性化させたのです。
「おかみさんたちは世話を焼くけど、商売については口出ししない。頼りになる存在であるけど、干渉はしてこない。そんな下町気質のおかみさんたちが御田町を支えているんです」と原さんは言います。
人が人を呼ぶ好循環が加速
口コミや人と人とのつながりにより、ものづくりを中心に開業する移住者が増え始めた御田町商店街。その流れを加速させたのが、2015年に移住してきた斉藤希生子さんが経営する「マスヤゲストハウス」です。
リノベーションの際には県内外から述べ約120人が参加。参加者から発信された情報から、このゲストハウスに人が集まり、活動拠点や情報交換の場としての役割も果たすように。下諏訪に興味を抱き訪れた人がさらに人を呼ぶという好循環が拡大しました。
「下諏訪町のファンとなった人々が、気の合う新たな仲間を連れてきてくれるんですよ。移住してきた人々を感覚的に世代分けしているんですけど、今は第5世代くらいになったかな。世代の厚みが増すとともに、移住の裾野は下諏訪全体に広がっていると感じますね」と原さんは20年にわたる活動に自信をのぞかせます。
県内外にファンを持つアトリエ兼ブティック兼ギャラリー「すみれ洋裁店」や、木のぬくもり感じる「あんず木工房」、弦楽器工房「LIUTAIO HIROTO SAI」や居心地のよいカフェなど、個性豊かな店舗が増えるとともに、おかみさん会やマスヤゲストハウスが果たしてきた役割を新たに担う拠点も増えています。
“頭の中に余白のある生活”が心地よい下諏訪での暮らし
2019年11月に東京から移住してきた伊藤慎太郎さん、奈々さん夫妻が営むカフェもその1つ。
浅草で生まれ育った2人は、いつか東京以外の地で商売をはじめたいとの思いを抱いていたそう。2016年に下諏訪町に移住していた友人の元を何度か訪ねる中で、豊かな自然へのアクセスもよいこの地にひかれていきます。 「祭り」「寺社」「下町気質」という浅草との共通点や、人を感じることができる場所ということも決め手となり移住を決意しました。
2020年には駄菓子とビールとコーヒーのお店「ちいとこ商店」を開店。“家族で楽しめる場所”とのコンセプト通り、0歳から90代まで幅広い客層を持つお店になりました。
「東京にいる時は人ごみや街にあふれるさまざまな情報が無意識のうちに入ってくるのか、常に何かを考えていて頭が休まらないような状態でした。下諏訪では自分達のペースを大切にした“頭の中に余白のある生活”ができている。これからは町がもっと良くなるように、地域の一員として協力していきたい」と伊藤さん。
ときには店舗を訪れる移住希望者の相談にのるなど、今では受け入れる側として店に立っています。
循環していく下諏訪町
下諏訪町を新たに訪れる人もいれば、ライフスタイルの変化などで新たな地へと移っていく人も。
「まちづくりに大切なのは持続性。空き店舗を埋めることが目的ではなく、循環していくことが必要だと感じています。移住してきた人達がコミュニティの担い手として活動している様子を見ると頼もしいなと感じますね。下諏訪から巣立つ人も、下諏訪のアイデンティティを持って新たな地で頑張っていると思うと心強いです」と原さん。
御田町は日々新たな町の形をつくり出しています。
※この記事は2022年3月時点の情報です。取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください