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信州ブランドアワード2022
NAGANO GOOD DESIGN 部門 大賞
「スギノモリ・ブルワリー」

NAGANO GOOD DESIGN 部門 大賞
「スギノモリ・ブルワリー」 

伝統と創作をかけ合わせた斬新なアイデアで挑んだ酒蔵再生

スギノモリ・ブルワリー
杉の森酒造株式会社(塩尻市)


 国の重要伝統的建造物群保存地区である中山道・木曽路の宿場町、奈良井宿で江戸時代後期から酒造りを行ってきた「杉の森酒造」。地域のシンボル的存在として愛されながらも2012年に休眠しましたが、2021年、「スギノモリ・ブルワリー」として新たに生まれ変わりました。

▲旧杉の森酒造の建物は酒蔵のほか、宿泊施設・レストラン・バー・温浴施設へと改修

2020年、再生プロジェクトが立ち上がる中で事業アドバイザーとして声がかかったのが、京町家の旅館再生や宮崎県の古民家をフルリノベーションした高級宿泊施設の創出など、事業再生コンサルを全国各地で手がける株式会社Kirakuの代表・サンドバーグ弘さんです。

当初、「杉の森酒造」の再生計画は酒蔵の雰囲気を生かした温浴施設を売りとする宿泊施設兼レストランにするものでした。しかし、サンドバーグさんはそこに待ったをかけたのです

「日本酒は継承されるべき日本の文化ですし、酒蔵を再生した宿泊施設の一角で酒造りまで行う宿は決して多くはありません。それに、奈良井宿という歴史的文化的価値のある街並みのど真ん中に酒蔵があるのも非常に珍しく、独特な地形や自然環境が広がっていて、信州のみならず、全国トップクラスの観光資源があると感じました。そこで、日本酒業界の常識にとらわれない製造環境の改善とセットで施設の一部をマイクロブルワリーとして再生させるアプローチを考えたのです」

自ら事業再生を担うことになったサンドバーグさんが着手したのは、大人数の分業制で、冬場に仕込みを行う既存の酒造りの環境を再構築することでした。

作業場の面積を従来の3分の1にミニマム化し、タンクも小型化して、杜氏一人で全工程が監修できる一貫生産体制を実現。さらに冷蔵室を備えて仕込み時期となる冬場の環境を作り出し、通年生産可能な「四季醸造方式」を取り入れ、小ロットながらも高品質・高付加価値の日本酒が作れる環境を整えました。異業種からの参入だからこそ行きついた、常識にとらわれない斬新なシステムです。

醸造を一手に担う杜氏の入江将之さんも「当社はもともと酒造メーカーではないので、従来の考え方に左右されない面白さがある」と話します。

入江さんは、福岡県出身。佐賀県や石川県、兵庫県などの酒蔵を経て、2016年から5年間、京都府の松本酒造で酒造りの腕を磨きました。そして、サンドバーグさんが松本酒造に一貫生産体制の四季醸造方式の計画を相談する中で、入江さんに新生「スギノモリ・ブルワリー」杜氏就任の声がかかったのです。

標高が約940mに位置するという環境と、自分の采配で酒造りができる魅力に加え、入江さんが興味を抱いたのが、1793年の創業以来、伝統的に仕込み水として山水を使用していたこと。その奥深い味わいに可能性を感じたと言います。

同様に、サンドバーグさんも、山水の魅力をこのように語ります。

「一般的に酒造りで使われる井戸水は味わいも水温も一定ですが、山水は四季による変化が感じられます。雪どけの季節は新鮮なおいしさがありますし、夏の水は大地の恵みともいえるミネラルを多く感じます。仕込むたびに変化があるのはブランドの個性になると思いました」

商品名は、この酒をきっかけに奈良井宿を多くの人に知っていただき、足を運んでほしいとの思いから「narai」と命名。酒米は安曇野市の契約農家で栽培された3種類(美山錦、金紋錦、山恵錦)を使用していますが、酒米の品種や精米歩合はあえてボトルには明記していません。これは、入江さんのアイデアによるものです。

「原材料や精米歩合でおいしさが評価されてしまうことが多い状況に疑問を抱いていました。大吟醸が最もおいしいと思われがちですが、人の好みは千差万別ですし、吟醸酒も普通酒もそれぞれのよさがあります。そこで、先入観なく飲み手の感性でおいしいと思うものを評価してほしいと考え、明記しないアイデアをサンドバーグさんに伝えました」(入江さん)

ボトルデザインは、瓶にシール等を貼る作業を効率化するため、ダイレクト印刷を採用。山間の地域特性と社名の杉の森を感じさせるグラフィックは建物の壁面にあった木工細工をモチーフにしたもので、黒のボトルに黒インクで印刷し、主張しすぎないストイックな世界観を表現しています。

さらに、日本酒は年々輸出量が増えていることから、海外を視野に入れたマーケティングを展開。

「海外という大きなマーケットに向けて展開ができるのが、英語が堪能なサンドバーグさんが率いるうちのチームの強みですし、海外の方々の味覚は日本人と違うでしょう。さまざまな方からの『narai』に対するフィードバックは僕としても面白く、得るものが大きいと感じています」(入江さん)

また、都内の星付きレストランやラグジュアリホテルでも提供されており、日本酒を飲む層を広げるため、和食だけでなく、フレンチとの組み合わせもチャレンジしています。

加えて、酒造りの様子が併設の宿泊施設のレストランから見ることができるのも大きな特徴です。杉の森をイメージしたミドリがかった黒色でマットな質感のタンクを導入するなど、“魅せる酒蔵”としてデザイン性にこだわります。

一般的には見学が難しい麹室をレストランから眺めることができるのも魅力。麹室などには最新設備を導入する一方で、杉の森酒造で長年使われていた木製の設備や道具も手入れし使用するなど、地域の伝統文化も酒蔵から伝えています。

「もともと林業が盛んな木曽地域には、昔ながらの木地屋や木の桶屋が今も残っています。壊れても手間をかけ、修理をしながら使っていくことで、この奈良井宿の街並みを含めて産業として発信できると感じています」(入江さん)

▲吹き抜けの天井から、かつて酒の仕込みに使用されていた一斗瓶の照明器具が下がる個性的な空間のレストラン。宿泊客でなくとも“魅せる酒蔵”で醸造された日本酒を味わいながら、食事を楽しむことができます。

今後は酒造りが体験できる宿泊プランや、塩尻市内のワイナリーと連携したアルコール・ツーリズムなども見据え、若者層をターゲットとした取組も視野に入れているとのこと。小規模でも個性と強みを生かしたコンセプト設計でブランド構築をした酒蔵がデザインの力で起こすさまざまなイノベーションに、今後も要注目です。 



スギノモリ・ブルワリー
長野県塩尻市奈良井551-1
0264-24-0340

https://www.narai.jp/ja

 

※この記事は2022年4月時点の情報です。取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください

 
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