【特集記事】フランス人食材研究家の長野テロワール旅
Vol.1 フランスの食材研究家と長野の魅力を見出す美食旅へ
2024.01.15
ワイン用ぶどうの収穫が最盛期を迎え、日本アルプスの山々には初雪の便りが届き始める10月上旬の長野県。朝晩の冷え込みを肌で感じるこの時期に、フランスにおける分子ガストロノミー研究の第一人者で、パリ・サクレー大学教授のラファエル・オモンさんが長野県を訪れました。
分子ガストロノミーとは調理によって食材が変化する仕組みを分子レベルで科学的に分析する、食のマリアージュの基本ともいえる学問のこと。長野県では、異なる感性や価値観で地域の魅力を再発掘し、磨いていくプロジェクトを進める中で、歴史や文化・伝統を尊重する精神性と豊かな地域性を有するフランスに着目。また、人々の五感に訴えかける「食」を切り口に魅力を伝える上で分子ガストロノミーを取り入れることが有効と考え、オモンさんに協力を仰いだのです。
数ある県産品の中からオモンさんがまず興味を抱いたのが、発酵県・長野県を代表する「味噌」と、長野県の冷涼な気候を生かして作られる「寒天」、そして清流で育まれる「わさび」です。オモンさんはこれらの食材をパリで分析した上で、それぞれの産地を知り、その風土や文化を学ぶために来県。松本市の味噌蔵、茅野市の寒天工場、安曇野市のわさび田をはじめ、そばの名産地である長野市戸隠や、ワイナリー、酒蔵のほか、善光寺、松本城、奈良井宿などの歴史的な観光名所も含め、3日間かけて巡りました。
「長野県は地域性が本当に豊か。訪れる土地ごとに見える風景も違いますし、標高差や寒暖差、空気や水の清冽さ、人々の営みなど、実際に訪れて直に感じることでこそ、その多様な魅力を感じることができる地域だと実感しました」
こう語るオモンさんが特に驚いたのが、技術や伝統の継承です。フランスは個性を重要視するお国柄な分、味噌蔵や酒蔵、木曽漆器工房などで何世代にも渡って職人たちが伝統を守り受け継いでいることが新鮮に映り、その精神性に触れたことが印象深かったそう。
また、海のない長野県で寒天が作られることも意外だったというオモンさん。その製法も、ヨーロッパで工業的に作られる粉寒天と異なり、長野県中央部の茅野市を中心に諏訪や伊那地域で作られる棒寒天は、冬の気候を生かし、凍結と乾燥を繰り返す天然のフリーズドライ製法だと知ると、自身が知る技術や手法などとのギャップに驚きを感じたと言います。さらに、そのエコロジカルな点に感嘆し、得心したのだとか。
同様に、戸隠でも、そば畑とそば処の距離の近さ、製粉、そば打ち、提供までにかかる時間の速さと大地の恵みを感じる味わいに、地産地消=エネルギー消費を伴わないエコの観点から食の魅力の原点を体感したようです。
「山々に囲まれた県であるがゆえに育まれてきた発酵食や保存食は、注目すべき長野県の食文化です。特に健康志向がブームのフランスで、これらの長野県の食材は日々の料理にも取り入れられると感じました」
こうした実感と、分子ガストロノミーの食材分析により、11月3日にはパリの5つ星ホテルで、オモンさんとホテルのシェフによる驚きの料理が提供されるレセプションが開催されました。
Vol.2では、このレセプションの様子をお伝えします。
※この記事は2024年1月時点の情報です。